出版社内容情報
性愛と淫蕩のイメージで語られてきたイスラム世界の後宮。そこで何が行われていたのか。気鋭の研究者がオスマン帝国の最奥部に挑む。
内容説明
性愛と淫蕩のイメージで語られてきたイスラム世界の後宮・ハレム。奴隷として連れてこられた女官たちは、いかにして愛妾、夫人、母后へと昇りつめていったのか。ハレムを支配する黒人宦官と、内廷を管理する白人宦官は、どのように権力を手にしていったのか。600年にわたりオスマン帝国を支えたハイスペックな官僚組織の実態を、最新研究を駆使して描く。
目次
第1章 ハレム前史―古代よりオスマン帝国初期まで
第2章 ハレムという空間の生成―トプカプ宮殿の四〇〇年
第3章 女官たち
第4章 王族たち
第5章 宦官たち
第6章 内廷の住人たち
第7章 ハレムと文化
第8章 変わりゆくハレム
終章 ハレムの歴史的意義
著者等紹介
小笠原弘幸[オガサワラヒロユキ]
1974年、北海道生まれ。青山学院大学文学部史学科卒業。東京大学大学院人文社会系研究家博士課程単位取得退学。博士(文学)。2013年から九州大学大学院人文科学研究院イスラム文明史学講座准教授。専門はオスマン帝国史およびトルコ共和国史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
六点
92
千年の都イスタンブルに住まい、3つの大陸に蟠踞し、再三に亘り欧州を震撼せしめたオスマン帝国。その家産でありながら官僚組織であったハレムについての一書。六点もオリエンタリズムに支配された脳味噌の持ち主であるのは言うまでもなかった。が、「後継者生産」という現実に軸足を置く組織が、此処まで凄まじい程、組織化されていたとは知らなかった。新知識を手に入れたと感じるのは読書経験の一つの喜びであるといえよう。WW1で滅んだ4つの帝国が現存していれば世界はどれほど、独自の風習に満ちていたかと残念に思う。2022/07/23
チョコ
61
オスマン帝国外伝にハマっていて色々オスマン帝国の本を読んだ中で、1番わかりやすかったし面白かった!とにかく一にも二にも王家の血を引く子孫を残す事に尽きるんだなぁ、と。そして、やはり衝撃的なのは宦官。ドラマではおちゃらけたキャラクターが多いけど、辛い少年時代だったんだなぁっと思う。2022/12/03
キムチ27
48
期待しなかった展開の内容は拾い物、思いの外熟読。近世以降、欧州発の偏った考えは気付いていたものの、ハーレムの新たな視点は興味を深めた。専ら王位継承の観点で完璧なヒエラルヒの元に築かれたこの制度。広大な領土を誇ったオスマントルコが多人種の内より奴隷として供給されてきた男女で組織。黒人宦官、小人、唖者の存在は重要であった。中・鮮、日本と異なり皇后の影は薄く母后が重い存在。供給の多くはクリミア近辺、チェルキス人。最も非ムスリムを原則としていた奴隷、しかしこのエリアは供給も積極的な為もあり不問。従いキリスト教徒2022/08/10
崩紫サロメ
30
性愛と放埒、といったオリエンタリズム的な視点で捉えられがちなハレムのあり方をオスマン帝国史の視点から検証する。著者は、オスマン帝国建国期から滅亡までを通して「ハレムは徹頭徹尾、王位継承者を確保するという目的に特化された組織だった」(p.274)と官僚組織であることを指摘する。また、中公新書『オスマン帝国』ではスルタンの年代記の形をとった通史を描いた著者であるが、本書はハレム・外廷・内廷といった空間とそこに生きる人を通して描くオスマン帝国通史でもある。著者の視点、構成力に毎回感心する。2022/04/22
MUNEKAZ
22
オスマン朝の後宮「ハレム」を紹介した一冊。外廷→内廷→ハレムと「奥」にいくほど皇帝のプライベート空間が広がる構造や、しっかりとしたヒエラルキーに基づく官僚制が確立されていた点など、江戸時代の「大奥」と似た部分が多くある。ただ宦官や小人、唖者を使う辺りは大陸の王朝らしいよなとも。女奴隷出身の女官と妻妾なんて、字面からすると如何わしいが、後ろ盾がない故に外戚の介入を防げるというのは成程。兄弟殺しの慣行といい、皇帝の私的な領域を、ドライかつシステマチックに処理している印象が強い。王朝が長く続いた一因はこれかも。2022/08/14