出版社内容情報
自分自身をべつの言葉に置き換え、変化を恐れずに生きてきた――。ベンガル人の両親のもとロンドンで生まれ、アメリカで育った著者は、幼い頃から自らや家族のことを、頭のなかで常にベンガル語から英語に「翻訳」してきた。大人になってから習得したイタリア語に見出した救い、母の看取りなど、自身の半生をひもときながら綴られる、小説を書くことを鼓舞してくれる「翻訳」について考えたこと。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
47
言語を揺蕩うラヒリのエッセイ集。言葉を置き換えるということは変身させる可能性があるのですね。自作を他言語に翻訳する難しさは想像に耐えません。母語と別の言葉、殊にイタリア語に対して真摯な姿勢で文学を紡ぐ想いが伝わってくるようでした。言葉に敏感だからこそ物語を生み出せるのだと思います。2025/05/11
ヘラジカ
38
母語とは別の言語と向き合って、その言語と共に生きること。ラヒリが如何にイタリア語に対して真摯な思いを抱き、文学を紡ぎ続けているかが伝わる良きエッセイ集であった。スタルノーネの『靴ひも』は日本語にも翻訳されているし、非常にユニークで面白い作品なので、この本を読んだ人には是非ともお勧めしたい。2025/04/25
かもめ通信
23
『低地』から9年を経て、久々にラヒリが英語で書いた。 しかも小説ではなく、翻訳に関するエッセイ集のようなものだという。エッセイというならイタリア語で執筆された『べつの言葉で』のような感じの物かな…と思いながら手に取ってみて色々な意味で驚いた。自分と同世代の作家が、次々と新しい扉を開けて、挑戦を続けている姿に感銘を受け、次はどんな作品を生み出してくるのかと、期待に胸を膨らませながら本を閉じた。2025/05/19
信兵衛
17
途中、読むのを止めて放り出したくもなりましたが、著者について知るという上では、貴重なものだったように感じています。2025/05/23
檸檬の木
16
ベンガル語を母国とし米国育ち、デビュー作でピューリッツァー賞を獲得した「停電の夜」をはじめ「低地」に至るまでの英語で創作した。イタリアに渡り言語を取得し現在はイタリア文学を書いて、英語に翻訳し、翻訳されている。ベンガル語を聞き取る事はできても書く事はできなく、物心ついた頃からずっと翻訳について考えてきたラヒリが翻訳を追求したエッセイ本。翻訳は世界を再構築するものだという考えに至るまでの言語に対する貪欲な思いと行動力を綴った骨太な一冊。あとがきにて最愛のお母様を看取ったラヒリの悲しげな背中が目に浮かんだ。2025/06/18