出版社内容情報
自分自身をべつの言葉に置き換え、変化を恐れずに生きてきた――。ベンガル人の両親のもとロンドンで生まれ、アメリカで育った著者は、幼い頃から自らや家族のことを、頭のなかで常にベンガル語から英語に「翻訳」してきた。大人になってから習得したイタリア語に見出した救い、母の看取りなど、自身の半生をひもときながら綴られる、小説を書くことを鼓舞してくれる「翻訳」について考えたこと。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
pohcho
54
エッセイというよりは翻訳に関する学術論文のような内容で、読むのに苦労した。今は翻訳家としても活動されているのね。スタルノーネの「靴ひも」はそのうち読みたい。イタリア語で書いた自作の小説を自ら英語に翻訳するうちに、原本の方を修正することになり・・というくだりは、気が遠くなりそうに・・。でも、何事もつきつめてされる方なんだろう。あとがきのお母様がとても印象的だった。「その花に宿ることにする」ってすごいな。漱石の夢十夜を思い出す。やはりラヒリの小説をまた読みたい。2025/09/30
優希
52
言語を揺蕩うラヒリのエッセイ集。言葉を置き換えるということは変身させる可能性があるのですね。自作を他言語に翻訳する難しさは想像に耐えません。母語と別の言葉、殊にイタリア語に対して真摯な姿勢で文学を紡ぐ想いが伝わってくるようでした。言葉に敏感だからこそ物語を生み出せるのだと思います。2025/05/11
ヘラジカ
39
母語とは別の言語と向き合って、その言語と共に生きること。ラヒリが如何にイタリア語に対して真摯な思いを抱き、文学を紡ぎ続けているかが伝わる良きエッセイ集であった。スタルノーネの『靴ひも』は日本語にも翻訳されているし、非常にユニークで面白い作品なので、この本を読んだ人には是非ともお勧めしたい。2025/04/25
かもめ通信
24
『低地』から9年を経て、久々にラヒリが英語で書いた。 しかも小説ではなく、翻訳に関するエッセイ集のようなものだという。エッセイというならイタリア語で執筆された『べつの言葉で』のような感じの物かな…と思いながら手に取ってみて色々な意味で驚いた。自分と同世代の作家が、次々と新しい扉を開けて、挑戦を続けている姿に感銘を受け、次はどんな作品を生み出してくるのかと、期待に胸を膨らませながら本を閉じた。2025/05/19
練りようかん
18
エッセイや自身が翻訳した作品の序文などをまとめた1冊。頭の中にはベンガル語を話す人がいて、英語で物語を書きイタリア語に“留学”してまた英語に戻った著者が考えてきたことが綴られている。なぜイタリア語を選んだのかより、どうしたら上手く話せるかに関心を向けていたとあり、言語の魅力は理屈じゃないなと再確認。謂れのない言葉もぶつけられるが、翻訳行為に文学的価値を強く感じていることがひしひしと伝わる。特に『靴ひも』のスタルノーネについて、研究者の如く深化させているのが印象的。小川氏の訳者あとがきがとっても良かった。2025/12/16




