出版社内容情報
男はバッグの落とし主に恋をした。手がかりは赤いモレスキンの手帳とモディアノのサイン本。パリが舞台の大人のおとぎ話第二弾。
内容説明
書店主が拾ったバッグには、赤いモレスキンの手帳が入っていた。男は離婚歴のある書店主。女は夫と死別した金箔職人。見知らぬ二人を結ぶ赤い手帳と一冊の本―。『ミッテランの帽子』に続く、大人のためのおとぎ話。ジュゼッペ・アチェルビ賞受賞。
著者等紹介
ローラン,アントワーヌ[ローラン,アントワーヌ] [Laurain,Antoine]
1972年パリ生まれ。大学で映画を専攻後、シナリオを書きながら短編映画を撮り、パリの骨董品屋で働く。『行けるなら別の場所で』で作家デビューし、ドゥルオー賞を受賞。『煙と死』『ノスタルジーの交差点』に続く『ミッテランの帽子』でランデルノー賞、ルレ・デ・ヴォワイヤジュール賞を受賞、世界的に注目を集めた。『赤いモレスキンの女』も20か国以上の言語に翻訳され、ドイツ語版がベストセラーに、イタリア語版はジュゼッペ・アチェルビ賞を受賞した
吉田洋之[ヨシダヒロユキ]
1973年東京生まれ。パリ第3大学学士・修士課程修了、同大学博士課程中退。フランス近現代文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
434
フランス文学の香気に満ち、全編にパリのムードが漂う極上の恋愛小説。しかも、大人の。訳文もいい。まずタイトルだが、原題は"LA FEMME AU CARNET ROUGE"(赤い手帳の女)をあえて『赤いモレスキンの女』とするセンスが光る。小説全体はパトリック・モディアノの作品群へのオマージュでもあり、あろうことか作品中にモディアノも登場する。直接的には未訳の『夜半の事故』との関係が深いそうなのだが、『失われた時のカフェで』や『暗いブティック通り』などの作品の持つ「匂い」とも通底する。⇒2023/10/03
星落秋風五丈原
131
前作では、ミッテラン大統領が忘れた帽子が複数の人のもとに行く。次作である本作もやはり“自分のものではないなにか”を手に入れた人物が登場する。但し今回“なにか”はあちこち移動しない。“自分のものをなくした人”と“自分のものではないものを手に入れた人”のシンプルな話だ。また、前回は“忘れられたもの”だったが今回は“捨てられていたもの”になる。前半はローランが、後半はロールがお互いに相手を探しあう。会わない分だけ思いが募るのはまるでアメリカ映画『めぐり逢えたら』のようでロマンティック。 2021/01/21
buchipanda3
127
偶然のちょっと込み入った出会いが描かれた恋物語。幾らか人生経験を経た二人の様子が洒脱な文章で綴られ、心地良い読み味を醸し出していた。本に纏わる話題も豊富でそれも魅力のひとつ。展開でも本は大切な役を果たす。書店主のローランが拾ったバッグの持ち主を知るために中を調べるが、そんなに見て大丈夫かと心配してしまった。でも彼は彼女の好みの本や文章から持ち主の人となりに思い掛けないほど共感を覚え、大胆な行動をしてしまったのだと思う。会ったことがない二人が共鳴していく姿に、最後まで魔法が解けないこと願いながら読み終えた。2021/01/27
のっち♬
124
拾ったハンドバッグの中身から持ち主に想像を巡らせる書店の主。今回も遺失物が映画的に人をつなぐ様をエスプリを効かせて描く御伽噺。コロナ禍を支える読書嗜好がフォーカスされ、別の運命への「可能性のノスタルジー」も記憶・失われた時間・アイデンティティを主なテーマとするモディアノのオマージュとして有機的に縫合されている。ピシエが賑やかに教鞭をとり生徒と文学談義に花を咲かせる場面や、「永遠の若きヒーロー」を立体的に再現せんとするモディアノの描写などは著者の情熱を感じずにはいられない。ロールに移入する場面や手紙も秀逸。2024/02/08
のぶ
120
大変に優れた文学作品だった。主人公のローランは、書店を経営している。ある日、女性が強盗にバッグを奪われる。それを拾ったのがローランだった。ローランはバッグの香水の香りに導かれて、赤い手帳の言葉を読み、バッグの持ち主に魅かれていく。なぜそんなにもそのハンドバッグの女性に執着するのかわからないまま、ローランは女性へとたどり着く、とてもロマンチックな物語。合わせて、ローランの営む書店の本の世界が、本好きにはたまらない部分が多くあった。同じ作家の「ミッテランの帽子」と合わせて魅力的な作品。2021/02/23