内容説明
子持ちの若い女に夫を奪われた音楽教師。やがて新しい伴侶と恵まれた暮らしを送るようになった彼女の前に、忘れたはずの過去を窺わせる小説が現われる。ひとりの少女が、遠い日の自分を見つめていた―「小説のように」。死の床にある青年をめぐる、妻、継母、マッサージ師の三人の女たちのせめぎあいと、青年のさいごの思いを描く「女たち」。ロシア史上初の女性数学者として、１９世紀ヨーロッパを生き抜いた実在の人物をモデルに、苦難のなかでも潰えることのなかったその才能とたおやかな人物像を綴る「あまりに幸せ」など、長篇を凌ぐ読後感をもたらす珠玉の１０篇。国際ブッカー賞受賞後第一作。「短篇の女王」７０代の集大成。最新作品集。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
145
国際ブッカー賞受賞作家による短編集である。 どの作品も 息を呑むような哀しさが 漂う。何か大切なものを 喪った人たちの心を 丹念に描く。底にひどく 諦めにも似た 共通の感覚が流れているような、そんな短編集だった。2020/09/22
紅はこべ
113
小説好きとしてすごく共感。〈ニータは小説に絡めて「逃避」という言葉が使われるのを耳にするのが嫌だった。現実の生活こそ逃避なのだと、冗談半分にではなくくってかかりたいところだった。〉(「遊離基」)「顔」で引用されたデ・ラ・メアの詩も好き。2019/08/23
藤月はな（灯れ松明の火）
103
アリス・マンローの作品はありふれた日々を送る人々の心に浮き上がっては鎮まる心情を丁寧に掬い上げてくれる。時には過去からの毒もトラウマも悔恨も残酷なまでに全て。だからこそ、彼女の短編は何気なく、読んでしまうと危ないのだ。「次元」での職場から「若いから転職しなさいよ」と勧められるドーリーの心に母に転職を勧められるパート勤めの私は共感していました。ところがドーリーは重いトラウマを抱えていた。手紙からもわかるロイドの身勝手さに腹が立ちながらもそれや周囲に混乱されるドーリーが痛ましい。彼女の救いは助けたかっただけ2017/09/07
やいっち
92
人によってはチェーホフの再来という評もあるようだが、ずっと老成した世界があわてず騒がず描かれている。この短編集の特徴の一つに、ロシアの女性数学者ソフィア・コワレフスカヤを扱った「あまりに幸せ」だろう。数学には門外漢ながら、この女性数学者の苦難の人生は関連書で折々目にしてきた。2021/03/04
優希
59
質の良い短編集だと思います。人や人生の描き方が丁寧で、短い話の中に芳醇な時間が流れているような感じがしました。悲しいことも喜びもじんわりくる感じがします。読み終えると少しぼうっとするような不思議な印象のある作品ばかりです。物語に結末的なものがないからかもしれませんが、それが深い余韻を味わわせてくれるのだと思いました。非日常的でありながら日常の生々しさがあるのがまたいいですね。ほの昏く輝く何かを見たような気がします。ゆったりとお茶でも飲みながら読みたい1冊でした。2014/08/09
