出版社内容情報
ドイツ文学の新しい旗手による、「壁」崩壊後の旧東独市民の12の物語。人々の心を覆う深い闇、そしてささやかな灯り。ライプツィヒブックメッセ賞受賞。
内容説明
元ボクサーの囚人、夜勤のフォークリフト運転士、ドラッグに溺れる天才画家、小学生に恋する教師、老犬と暮らす失業者、言葉の通じない外国人娼婦に入れ込むサラリーマン―。東西統一後のドイツで「負け組」として生きる人間たちの姿を、彼ら自身の視点から鮮やかに描き出す12の物語。極限まで切り詰めた言葉の積み重ねが、過酷な日常に射すかすかな光を浮き彫りにする。ライプツィヒ・ブック・フェア文学賞受賞。
著者等紹介
マイヤー,クレメンス[マイヤー,クレメンス][Meyer,Clemens]
1977年、東ドイツ・ハレ生まれ。建設作業、家具運送、警備などの仕事を経て、98年から2003年までライプツィヒ・ドイツ文学研究所に学ぶ。多数の文学賞を受賞し、舞台化もされた。2008年、2作目となる『夜と灯りと』でライプツィヒ・ブック・フェア文学賞受賞。ライプツィヒ在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
160
「ベルリンの壁」崩壊後の旧東ドイツの人々の生き様を描いた短編集である。 社会の周辺に生きる人たちを クールに描く。 心なしか アメリカ作家の短編集にも似て、 感情を抑えたタッチが 心地よい。 著者自身の体験に基づく 多様な視点は、 現代の東欧の実情なのか?ひどく 透明感のある世界だった。2020/08/08
nuit@積読消化中
79
驚いた。初めてクレメンス・マイヤーという作家を知り、何気なく手を取ったらのめりこんだ。物語もそうだが、著者独特の文体や世界観にどっぷりと浸かったら抜け出せなかった。多様な登場人物、失業者、服役中の男、卸売市場の夜勤の従業員、さびれた村の老人、天才画家…けっして成功者の物語とは言えない、どちらかというと「負け組」の人間模様。しかし、その中にも何か温かさが感じられる。本書収録「通路にて」が『希望の灯り』という放題で映画化されている。こちらも必見。2021/07/21
ゆりあす62
67
図書館本。★★☆☆☆ベルリンの壁が崩れ、その後の東ドイツの人々を描いている。十二の短編集。みんなどこか影があり病んでいる。西と東の格差は縮まったのだろうか。作者は東ドイツ生まれだから、詳しく書けるのだろう。あとがきに暗い物語にも最後には「光」が、とあったが私には勉強不足で、見いだすことが出来なかった。2016/06/05
NAO
63
ベルリンの壁崩壊後、旧東ドイツの人々の多くは再統一を歓迎しながらも体制の変化に対応しきれずに取り残され「二級市民」としての苦渋を舐め、未だに、旧東ドイツ地域と旧西ドイツ地域との格差は歴然としているという。東ドイツに生まれ育った作者による『夜と灯りと』は旧東ドイツを舞台とし、俗に「負け組」と言われている人々の日常を描いた短編集。彼らのあまりにもつましい日常を、作者は素っ気ないまでに簡潔な文章で描いていく。だが、その素っ気ない文章の奥底に、彼らへの深い共感と愛情が感じられる。 2022/03/26
kariya
50
話す言葉や皮膚の色は違っても、現れる光景は驚くほど「今ここ」と似ている。統一後の旧東ドイツで暮らす、恐らくは「負け組」と称される人々。病の老犬を救いたい失業中の男の奔走、一時外出する囚人仲間に娘への金を託す元ボクサー、旧友から届く真偽の定かでない手紙を待つ男の喜び。ほのかな灯りをよすがに生きるような姿を、簡潔で特異な文体は突き放すようには描かない。惨めで苦い結末であっても。絶望と希望の狭間に住む全ての人に、生きてさえいればまだ微かな望みはあるのだと、そっけなく告げるように。2010/06/05