出版社内容情報
ゲシュタポでドイツ軍の通訳をしながら、ユダヤ人脱走計画を成功させた男。敵味方なく「人間」を愛し、ユダヤ人でカトリック神父として生きた激烈な生涯。
内容説明
ダニエル・シュタインはポーランドのユダヤ人一家に生まれた。奇跡的にホロコーストを逃れたが、ユダヤ人であることを隠したままゲシュタポでナチスの通訳として働くことになる。ある日、近々、ゲットー殲滅作戦が行われることを知った彼は、偽の情報をドイツ軍に与えて撹乱し、その隙に三百人のユダヤ人が町を離れた…。戦後は、カトリックの神父となってイスラエルへ渡る。心から人間を愛し、あらゆる人種や宗教の共存の理想を胸に闘い続けた激動の生涯。実在のユダヤ人カトリック神父をモデルにした長篇小説。
著者等紹介
ウリツカヤ,リュドミラ[ウリツカヤ,リュドミラ][Улицкая,Людмила]
1943年生れ。モスクワ大学(遺伝学専攻)卒業。『ソーネチカ』で一躍脚光を浴び、96年、フランスのメディシス賞及びイタリアのジュゼッペ・アツェルビ賞を受賞。2001年、『クコツキー家の人びと』でロシア・ブッカー賞を、また『敬具シューリク拝』で04年ロシア最優秀小説賞、08年イタリアのグリンザーネ・カヴール賞を受賞。『通訳ダニエル・シュタイン』で07年、ボリシャヤ・クニーガ賞、08年ドイツのアレクサンドル・メーニ賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
269
本書の主人公、ダニエル・シュタインには実在のモデルがあるようで、したがってウリツカヤも当初は可能な限りフィクションを交えないドキュメンタリー・タッチで構成する意図を持っていた。作品全体は、手記、書簡、録音テープなど、様々な媒体からなり、時間軸も1940年代、60年代、80年代、それ以降と錯綜する。また、それを語る人物も多く、彼らの立場も(大戦当時の、あるいは現代の)多様である。それが収斂してゆくところに、ダニエル・シュタイン像が浮かび上がるのだが、これまた一筋縄ではいかない。何故なら、彼の出自は明らかに⇒2025/06/03
遥かなる想い
150
実在のユダヤ人カトリック神父をモデルにした物語である。 ヨーロッパにおける ユダヤ人で キリスト教徒の 意義を 問いながら、書簡形式で 語られる。 民族と宗教の問題…日本人には 実感しにくい 深遠な上巻だった。2020/04/04
naoっぴ
67
ユダヤ人のカトリック神父・ダニエルの複雑な半生が、書簡や記録の形式で語られていく。時代も語り手もその都度変わるので、迷子にならないようページを戻りつつ読んだ。実在の人物をモデルにしているのでノンフィクションのようだ。ユダヤ人とは。キリスト教とは。それらも欧州各国やアラブなど出自や民族によりさまざまに分岐し性質も異なり、その情報量に圧倒されている。ホロコーストの描写では、人間の優劣を人間が決めつけて裁く愚かさを目の当たりにして心に鉛を埋め込まれたよう。エネルギーをためてから下巻にいきたい。2019/11/22
キムチ
59
多くの書簡が納められたこの作品。時間は行きつ戻りつ、登場人物は実に多彩。読みこなすにはかなり骨が折れた。今でも大半、不消化気分。「通訳」の冠がつくシュタイン―ポーランドに生まれ、身分を偽りゲットーで働きユダヤ人救出に功をなす。その後イスラエルで聖職者として情熱を燃やしている。ゲットー・パレスチナ・ガザ・イスラエルとヨルダン、彼の周りに立ちはだかる壁は多い。その中で自らの途を貫き国家・民族・宗教等の橋渡しともいえる「通訳」の冠を筆者が考えたのか?思いの外彼の人間性は硬質ではなくソフト。長年、傍らでいた女性、2021/01/02
aika
53
過酷で、数奇で、崇高な人生。ユダヤ人ながらゲットーの通訳として生き延び、同胞のユダヤ人の命を救い、イスラエルでカトリック司教として信仰の道を歩むダニエル・シュタイン。様々なひとびとの人生が交錯する往復書簡を通して、彼の立体像が描かれていく様子は、まさに画家の素描を眺めているようでした。ユダヤ人という出自やルーツが、彼に幸運も不運も与えますが、ダニエルがどんな環境にあっても、周囲の人をいたわり大切にし、自分が決めた道を歩む信仰者としての足跡が、現実的な日常の中で一歩を踏み出す勇気を与えてくれました。2018/02/23
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