Crest books
海に帰る日

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  • サイズ B6判/ページ数 255p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784105900618
  • NDC分類 933
  • Cコード C0397

内容説明

最愛の妻を失った老美術史家マックス・モーデンは、記憶に引き寄せられるように、小さな海辺の町へと向かう。遠い夏の日、双子の弟とともに海に消えた少女。謎めいた死の記憶は、亡き妻の思い出と重なり合い、彼を翻弄する。荒々しく美しい、あの海のように―。各国の作家に激賞されるアイルランド随一の文章家が綴った、繊細で幻惑的なレクイエム。2005年ブッカー賞受賞作。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

369
〝The Sea〟のタイトルが象徴するように、物語の時間は過去と現在時(それとても、現在時なのがどうか定かではないのだが)を揺蕩う。それは、あたかも寄せては返す波のように。そして確かにあったはずの過去の事象もまた時には幻想が想い出の中に侵食しつつ、不確かさのなかに溶解してゆくかのようだ。物語には常に「死」の影もほの見え、「わたし」の語りを覆っているのは諦念である。それは、あるいは東洋的な無常観のようであるかも知れない。そのことは、事物と人間が等価に語られることでも、一層にそうした印象を強めている。2021/06/06

遥かなる想い

230
2005年ブッカー賞。 不確かな人生を しっとりと描いた 味わい 深い作品だった。 50年前のグレース一家との 海辺の思い出が みずみずしい..もう戻ることができない 素晴らしき時間への 哀切な想いが 繊細な文体で 読者に贈られるのだが..気のせいか アンナも クロエも マイルスも顔が見えない。 思い出の中でひたすら 漂う.. 最後の真実も まるで 陽炎のように実感が伴わない、そんな終わり方 だった。2017/06/19

nobi

93
「いくらでも取り留めのないことを紡ぎつづける」年老いた男の独白についていくのは忍耐がいった。延々と切れ目のない嘆息尽くしの独白。複数の過去と現在は男の意識の中で遠近感を失い、いずれの過去なのか現在なのか見分け難くなってくる。クロエ、アンナ、クレア、…、マックス自身、各々が抱えて共有されることのなかった憎しみ怒り悲しみが次第に剥き出しにされ、その間、表情声音振舞い疼きの記憶は、喪失を伴うが故に一層鮮烈な共存感覚として立ち現れる。海は生命をはぐくむ比喩としてよりは生命が還ってゆく先として目の前に広がっていた。2017/12/01

藤月はな(灯れ松明の火)

92
寄せては返す波のように自分の過去を振り返る時は、ほろ苦い鈍い痛みを伴う。娘のクレアから責められ、闘病生活を送る妻アンナの人生には介入する場所はないと気づき、どんどん、彼女が生身の人間から超越していくのを見守るマックスは心細かったのだろう。自分が選んだ事は本当に愛する人のためだったのか、本当はやっと手に入れた安楽な生活を、自分を守るためだったのじゃないかと。だからこそ、妻の死後、彼は今の自分を作り上げた海へ向かった。だけど、彼の語る過去の人物はまるで今、作り上げられたかのような名付けがぞんざいにされる。2017/11/19

Mumiu

59
この地表の7割を占める圧倒的な存在。その巨大さゆえ、広さ大きさの比喩にも用いられる。「言葉の海」などのように。数多の生命を生み育み、そして時には飲み込み、受け入れる。「すべての川はみな そなたをさしてつねに流れた」と歌われる。失意のうちに倒れても、自分ではない何者かになろうと足掻き充実した人生を送ろうとも、生を受けたものがみなそこに向かっていくように。2015/05/30

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