内容説明
若き日の父が、辛くも死を免れたとき手にしていた本にちなんで、「ゴーゴリ」と名づけられた少年。言葉にしがたい思いがこめられたその名を、やがて彼は恥じるようになる。生家を離れ、名門大学に進学したのを機に、ついに改名。新しい名を得た彼は、いくつもの恋愛を重ねながら、自分の居場所を見出してゆく。だが晴れて自由を満喫しながらも、ふいに痛みと哀しみが胸を刺す。そして訪れる、突然の転機…。名手ラヒリが精緻に描く人生の機微。深く軽やかな傑作長篇。
著者等紹介
ラヒリ,ジュンパ[ラヒリ,ジュンパ][Lahiri,Jhumpa]
1967年、ロンドン生まれ。両親ともカルカッタ出身のベンガル人。幼少時に渡米し、ロードアイランド州で成長する。大学・大学院を経て、99年「病気の通訳」でO・ヘンリー賞受賞。同作収録のデビュー短篇集『停電の夜に』でPEN/ヘミングウェイ賞、ニューヨーカー新人賞ほかを独占。2000年には、新人の短篇集としてきわめて異例ながらピュリツァー賞を受賞。現在、夫と息子とともにNY在住
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
144
アメリカで暮らす若いインド系夫婦と その息子の物語である。 ゴーゴリと言う名の少年の成長を通して、 異国で生きる風景を描く。 本にかけた 父の想いが ほんのり 心に残る。 ゴーゴリのいくつもの恋と 結婚 そして… 家族の絆の深さが いかにも 著者らしい、そんな印象の作品だった。 2019/08/03
pino
109
(自分用メモ)図書館 読み終えるのがもったいないくせに先へ先へとページを捲る手が止まらない。返却日までじっくり味わう。手元においておきたい本。感想は再読したときに。2020/02/25
(C17H26O4)
66
インドから米国に移住した家族の物語。ロシア人作家の名前にちなんでゴーゴリと名付けられた息子の葛藤が、淡々とした短い文の隙間から滲み出してくるようだった。家族に訪れる様々な出来事がゴーゴリだけでなく、母親、父親、妹、恋人それぞれの視点から描写されることで、両親の価値観を否定したいゴーゴリの気持ちと、簡単には割り切ることのできない血ともいうべき深い思いが浮き彫りにされている。親の思いも然り。それらは移民ならではのものでもあろうが、普遍的な家族の感情にも思えた。親の子への思い。子の反発。理解。見事という他ない。2018/12/06
bianca
52
しみじみと時間を掛けて読みたい作品。インド系移民ガングリー家の歴史で、主軸は長男のゴーゴリ。インド系なのにロシア系の名が付けられ二世としてアメリカで生まれ育つ彼。どこにも属さず何者でもない感覚と文化の間を揺れ動く。まるで自分の息子の誕生から三十代までを8ミリ映画で観ている様。時に成長が眩しくて微笑んだり、はらはらと涙が流れたり。現在の自分は母目線でも子供目線でも多くを共感した。人の一生は膨大な時間の流れからすれば、一瞬の炎、大海の一滴。いずれ自分が愛し、愛された人々が消え、誰からも名前を呼ばれなくなる(続2014/11/18
クリママ
47
インドの曾祖母からの名付けの手紙が届かず、父親には意味深い作家ゴーゴリの名を命名されたベンガル人青年の誕生から32歳までの物語。夫の勉学のために結婚直後にアメリカへ渡った両親。アメリカで生まれ育つ青年。片や由来から離れまいとし、片や距離を置こうとうとする。しかし、どちらにしても、その日常生活はそれぞれのアイデンティティの模索のようだ。国によって生活習慣や考え方は違うものの、感じるところは何人であっても同じ。それがきめ細やかに綴られる。訳も素晴らしいのだと思う。訳者あとがきも好きだ。深く心に残る作品だった。2018/08/28