内容説明
ロウソクの灯されたキッチンで、停電の夜ごと、秘密を打ちあけあう若い夫婦。病院での通訳を本業とするタクシー運転手の、ささやかな「意訳」。ボストンとカルカッタ、はるかな二都を舞台に、遠近法どおりにはゆかないひとの心を、細密画さながらの筆致で描きだす。ピュリツァー賞、O・ヘンリー賞、PEN/ヘミングウェイ賞ほか独占。インド系新人作家の鮮烈なデビュー短篇集。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
172
インド系作家の味わい深い短編集である。 静かな語らいが 胸に染みる。 夫婦・家族の 秘密、二つの大陸への想いなどが 繊細な筆致で描かれる。 日常のさりげない出来事を 丁寧に描いている、 そんな短編集だった。2019/07/06
こーた
153
しばらく積んでいたラヒリの短篇集を、近々新刊が出るので(といってもそちらはエッセイだが)その前に、と慌てて読む。ラヒリの小説、というよりは英語で書かれた文章(の翻訳ではあるが)を読むのはこれが初めてだ(以前読んだのはイタリア語だった)。デビュー作でこのクオリティ、完成されてるなあ。東海岸のオシャレな雰囲気に、インドルーツが混ざり込んで、独特の風味を醸し出している。スパイスをふんだんに使った九皿のコース料理、とでも云おうか(いかにもクレスト・ブックスっぽい)。料理の描写はどれも美味しそうで⇒2025/04/22
雪うさぎ
100
私は彫刻を見るときは必ず背中から見る。その人物の背負っているものが見えるような気がするからだ。ラヒリの被写体を見る角度は、平安絵巻に出てくる"吹抜屋台"という表現法に似ている。人と人との距離間を描くには最適と言われる構図だ。その視点から彼女は物理的ではなく"シンパシーを物差しとした遠近法"で描いている。心の近さだ。共感するものがあれば、心の距離はぐっと縮まり、地球の裏側の出来事も身近な出来事となるのだ。シンパシーを感じることが、国境や言葉の壁を越えて、人と人とが分かり合える第一歩になるような気がする。2016/04/21
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
97
☆5.0 くせがすごい!とにかく妙!何と言えば良いのだろう?ぶっきら棒?投げやり?不思議ちゃん!“どこから”の目線で語ってるんだ?俯瞰目線?いつの間にか、じわじわじわじわ、今まで感じたことのない“何か”に取り憑かれる短編集。2021/01/07
naoっぴ
90
短編ひとつ読み終わるたびにひとつため息。人の心はどこに動くかわからない。そうだよねぇと感慨にふけってみたり、現実ってこうなのよと膝を打ってみたり。ありふれた日常の場面での何気ないしぐさや言葉のやりとりだけで、人の心をリアルに感じさせてくれる文章がすごい。「停電の夜に」の夫婦の感情の皮肉な違いや「ピルザダさんがー」の祈りの美しさ、「セクシー」の揺れ動く女心、「三度目で最後のー」の夫婦が馴染む感じなどとても良かった。そして「神の恵みの家」は個人的に大好き。妻のトゥインクルが奔放で輝いていて笑顔になれた。2016/09/07