内容説明
OLのマリアンにはピーターという恋人がいる。このままいけば、結婚し、世間なみの幸福な家庭が約束されている。だが、果してそれだけが自分の人生だろうか、マリアンのアイデンティティを求める悩みは深く、彼女は拒食症に…。人生の岐路に立つ若い女性が一度はかならず経験する心の迷いを、女性特有の生理からリアルに描く、フェミニズム文学の先駆けとなった著者の処女作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
84
学力や身体から「女」であることを揶揄してきた父に幻滅した経験から、男性に対してキツい観方になる私には結構、自分の我が儘で傲慢な「女」という部分を鋭く、突かれるような読書となりました。エインズリーの子供が欲しい理由に呆れるものの、男は家庭内での存在感がどうしても薄い事を考えると納得できる所もあるから嫌だ(笑)そして雛になりかけだった卵を母に食べさせられたレイの叫びは、子供を愛情や子供の将来などに理由づけて食い潰された(子供の性格や自我の緩やかな否定、母親への同化の強制、依存など)子供の叫びとも取れるだろう。2017/04/11
キムチ
44
受け身の表題 謎はラストで判明。ヒロイン マリアンの周囲の日常が清濁含めて ドライに描かれる。アトウッドデヴュー作とは思えぬ力たっぷり作品。1960年代に執筆なので20歳代?3部構成で展開する男女間の立ち位置の駆け引きは今でも通じそうな性ゆえの表裏が見えて読み易く 面白い。ピーターとの関係から見える彼の何様ぶり、大学院三人男のあっけらかんぶり、そしてダンカンへ乗り換える?否?マリアンが自らを「前向きに歩む己、もしくは消費される己」の2者択一を揺れながら選択していく情景。同居する女性の「父親なしで子供2024/06/30
kasim
34
久々に読むアトウッド。マリッジブルーに陥るOLというとよくある話のようだが、さすがデビュー作から違う。私にとってアトウッドの好きなところ、理知的で的確な分析と詩的な感性の両立はもうここにある。本作はユーモアもてんこ盛りで、婚約後の主人公マリアンが心惹かれる文学部の院生ダンカンは不思議ちゃんで不倫相手にはほど遠いし(現実性も薄くてマリアンの分身のよう)、男は不要と主張する革新的なルームメイトは遺伝子決定論者で同性愛嫌い。変人だらけ。2019/12/27
Miki
14
原書との並行読み。忠実な翻訳なのだが日本語の文章として好みでないので読みづらかった。婚約を機に自己の(女性としての)アイデンティティーへの疑問が噴出し、コントロールできない状態(摂食障害)に陥る主人公。多くの皮肉的な間違いが描かれているが、人間はみな間違いをたくさんおかしながら答えを見つけていくのだろう。ストーリーはぜんぜん違うが、西加奈子の『ふくわらい』を読んだ時と同じような読後感。2015/05/31
Ecriture
11
1969年、アトウッドのデビュー作。ありふれた日常のなかで男が女をカタログ商品のように扱い、食い物にしているさまを描く。しかしアトウッドはどぎついフェミニズムにはずっと批判的だった。女がしたたかに、あるときは無意識に男を利用することや、女が男を破壊しようとする側面にも注意を促している。マリアンとピーターとの婚約を期に三人称の語りに切り替え、二人の関係の終わりとともに一人称に戻すなど手法もこだわっている。それは面白みでもあり、若書きの未熟さでもある。本人の言う通りフェミニズムでなく、プロトフェミニズムの書。2011/05/31