出版社内容情報
誰もが孤独の部屋の中から、報われない愛の行き場を探している。南部ゴシック文学を代表する名作が村上春樹の新訳でよみがえる!
内容説明
1930年代末、アメリカ南部の町に聾唖の男が現れた。大不況、経済格差、黒人差別…。カフェに集う人々の苦しみをその男だけが、いつも静かに受け止めてくれた。―村上春樹が「最後のとっておき」にしていた古典的名作、新訳で復活!
著者等紹介
マッカラーズ,カーソン[マッカラーズ,カーソン] [McCullers,Carson]
1917‐1967。ジョージア州コロンバス生まれ。幼少期からピアノの才能に秀で、ニューヨークのジュリアード音楽院に進むが、授業料を失くして入学を断念。かわりにコロンビア大学で創作を学び、リーヴズ・マッカラーズと結婚。1940年、23歳にして『心は孤独な狩人』を執筆し、文学的なセンセーションを巻き起こした。その後は小説やノンフィクションを執筆、1967年、50歳で世を去った(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やいっち
120
「フィッツジェラルドやサリンジャー(やチャンドラー、カポーティら)と並ぶ愛読書として、村上春樹が翻訳に際しとっておきにしていた古典的名作」だとか。遠い昔、読んだことがあるが、全く印象に残っていない自分が情けない。 今回改めて読んでその素晴らしさに圧倒された。若干23歳の女性が書いたとは思えない筆力表現力洞察力観察力。2022/04/25
まふ
110
白人作家視線で見た1930年代南部アメリカの黒人の医者一家の少女ポーシャと貧困な白人家庭の娘ミックをたて糸にした生きにくく住みにくい世界の物語。白人でユダヤ人の聾啞者シンガーの控えめながら思いやり溢れるやさしさがこの社会の希望であり救いのようでもあったが、シンガー氏が自殺することによって「生きにくさ」が一層こたえるようになり、救いのないまま結末を迎える。作者マッカラーズの優しい眼差しとそれでも救われない人々の諦観、疎外感が最後まで心に残る重い物語だった。G1000。2023/07/24
buchipanda3
106
カフェの終夜営業を続けるビフ。彼はなぜ利益にならない深夜も開けたのだろう。それは迎え入れたいから。孤独な心の持ち主を。何かを聞いて貰いたい者たちを。彼の孤独な心のためでもある。読後、改めて題名を見て、その言葉の尊さと儚さが胸に広がった。人は心の内を他者と共有することは出来ない。願いも愛も怒りも悲しみも言葉では言い尽くせない。そのことにふと孤独を感じてしまう。周囲に理解されないと考える変わり者は尚更。心は孤独な狩人。著者は自らも含め様々な人々の心を見つめ、描いた。心に寄り添うように聞き、仄かな希望を添えた。2023/09/09
keroppi
86
私の故郷、熊本の八代に「ミック」という喫茶店がある。地元の文化人たちが集まる珈琲店。その名前が、この作品の登場人物の一人から取られたらしい。孤独で、貧しく、何かが欠落している登場人物たち。その思いは交わることはない。1930年代のアメリカ南部を舞台としたこの長編をわずか23歳の女性が書いていたことが驚きである。重く、苦しく、悲しいエピソードが続くが、「大丈夫!オーケー!そこには意味がある。」と語るミックに希望を感じてしまう。喫茶店「ミック」に今度訪れることがあったら、マスターの思いに耳を傾けたいものだ。2021/04/05
アン
84
1930年代後半、米国南部の小さな町。深夜営業するカフェの主人、放浪するアナーキスト、人種問題と闘う黒人医師、音楽家を夢見る多感な少女。不条理な世の片隅で、貧困や差別による鬱屈や諦念を抱え、彷徨う人々の声にそっと耳を傾けるのは聾唖のシンガーである。彼の瞳は儚げで優しく、彼も行き場のない想いを抱えているのが切ない。他者に心の内を理解してもらう難しさを痛感するが、著者のひたむきな人々への眼差しには温もりがある。厳しい人生であっても、夜明けに朝露が煌めくように、ささやかな光はあると祈りたい心震える一冊である。 2024/03/10