出版社内容情報
人に優しくない社会が何故できてしまうのか? U・エーコとヒトラーを同時に読み解くことで熱く伝える〈生き抜くためのレッスン〉。
内容説明
「他者に優しくなれない」社会の、先にある罠。格差、ヘイト、弱者切り捨て、疫病の蔓延、相互不理解…。やがて、人はこんな「思想」につけこまれてしまうのか、自ら溺れてしまうのか?緊急集中講義実録!
目次
1 不寛容はどこから生まれるか?
2 お互いの「耐えがたさ」
3 性も健康も国家が管理する
4 知性の誤使用としての反知性主義
5 総統の逆問題
6 いま生きるナチズム
7 歴史は繰り返すにしても
著者等紹介
佐藤優[サトウマサル]
1960(昭和35)年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995(平成7)年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年5月に背任容疑、同7月に偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受けた。同年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、文筆家として精力的に執筆を続けている。主な著書に『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)など多数。共著も多い(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
72
現代を一語で表すと「不寛容」だと思う。その象徴がナチズム。本書は、ヒトラーの「わが闘争」の解題であり、「客観性・実証性を無視」「国家は目的ではなく手段」「人種は国家を超える」「宣伝と扇動の使い分け」など、ナチス独特の論法が解説されるが、反知性主義を代表するこの書物には、何の感動も覚えない。むしろ、人類は「寛容より先に不寛容があった」という佐藤さんの指摘にハッとさせられた。プロテスタントとカトリックが、もうこれ以上戦えないと悟って最終的に見出したのが寛容だと言う。そうか、人類は不寛容がデフォルトなのか…。2020/07/15
とよぽん
53
「寛容より先に、不寛容があった」という言葉が強烈だった。ヒトラーの非人道的な思考や言動を、ただ知っているだけだった私にとって、この読書はとても丁寧で的確なヒトラー解題と言える。新潮講座「ファシズムとナチズム」を再構成した本書を読みながら、東大で加藤陽子教授が高校生を相手にした講義の本と共通点があると思った。自分も受講生のように感じ、講師の熱が伝わってくるのだ。最後の質疑応答にも、佐藤 優さんの明快な歯切れのよい人間愛を感じた。2020/09/25
Koichiro Minematsu
51
ヒトラー「わが闘争」を著者が分かりやすく授業形式で解説。優生思想が生み出す「我々だけが生き残る」という考えには恐怖を感じた。また口に出す言葉にも責任を持ちたい。2022/05/15
パトラッシュ
48
いつの時代いかなる国でも政治的経済的不満が高まれば、異分子への不寛容に解決策を求める政治家が支持される。それを極限まで実行したナチスドイツで、ヒトラーが民族絶滅にまで突っ走った理由を『わが闘争』から読み解く。アーリア民族優越と革命のためのノウハウを説くなど当時のドイツ人にはトンデモ本扱いだったかもしれないが、「ヒトラーは純粋無垢だった」とした歴史家の言葉通り国民への選挙公約を(手段を選ばず)忠実に実行しただけなのか。不寛容を訴える政治家が増え続ける今日、先駆者ヒトラーの政治技術を知る必要を痛感させられる。2020/08/17
ぐうぐう
37
『わが闘争』を解読するにあたって佐藤優は、ファシズムとナチズムは必ずしもイコールではないと注意するところから始める。そして、エーコの『永遠のファシズム』を紹介し、それを羅針盤にして、慎重に『わが闘争』のページを開いていく。印象により形成された固定観念を、知性により覆していこうとする意図がそこから感じられる。「エーコは既に、ポリティカル・コレクトネスを声高に主張する人間は、自分たちは非常にリベラルで寛容だと思っているが、PCという新たな原理主義を振り回すことによって極めて不寛容になりうるんだ。(つづく)2020/06/24