出版社内容情報
最高の旅とはさびしい旅にほかなるまい。過去に通り過ぎた町のあれこれから人生の記憶に思いを馳せる、活字で旅する極上の20篇。
内容説明
最高の旅とは、さびしい旅にほかなるまい。観光地でも旧蹟でもない町で、人生の最深部に触れた日々の記憶。活字で旅する極上の20篇。
目次
ナイアガラ・フォールズ
ペスカーラ
イポー
名瀬
ヴィル=ダヴレー
ニャウンシュエ
タクナ
上野
シャトー=シノン
長春
上田
台南
コネマラ
パリ十五句
江華島
トラステヴェレ
アガディール
ドーチェスター
中軽井沢
夢のなかで行った町
著者等紹介
松浦寿輝[マツウラヒサキ]
1954年東京生まれ。詩人、小説家、東京大学名誉教授。1988年、詩集『冬の本』で高見順賞受賞。95年、評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、96年『折口信夫論』で三島由紀夫賞、2000年『知の庭園―19世紀パリの空間装置』で芸術選奨文部大臣賞受賞。同年「花腐し」で芥川賞、04年『半島』で読売文学賞、05年『あやめ 鰈 ひかがみ』で木山捷平文学賞、09年、詩集『吃水都市』で萩原朔太郎賞、14年、詩集『afterward』で鮎川信夫賞、15年、評論『明治の表象空間』で毎日芸術賞特別賞、17年『名誉と恍惚』で谷崎潤一郎賞、19年『人外』で野間文芸賞を受賞。19年、日本芸術院賞を受賞。日本芸術院会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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信兵衛
31
いろいろな町を訪ねた時の経緯、その時の状況が合わせて語られており、それは人生の回想に繋がっています。 そこが本書の読み処でしょう。2021/03/16
踊る猫
27
蓮實重彦や吉田健一が書いたような「手すさび」「随筆」を想起しつつ、しかしこの著者が記すものにはそうした「人を食った」「悪意」がないなと思う。こちらが思わずむかついたり笑ってしまったりするような底意地の悪さがなく、代わりにどこか実直な生きづらさ・生真面目さを感じたのだった。その意味では意外とこれは堀江敏幸のような書き手の誠実・篤実な回想に通じるものであり『おぱらばん』『熊の敷石』が好きな人なら気に入るものなのかもしれない。ここにいる、ということそれ自体も疑わしくなり掘り返す記憶がどこかの別世界・妄想の彼方へ2023/08/16
きゅう
17
旅の話が読みたいと言っていたら、本好きの上司が貸してくれた。国内・海外のさまざまな町を旅してきた筆者が、旅の記憶を辿りながら現在における自らの心情を見つめ直す、時間と記憶と精神をめぐる紀行文。何度も足を運んだ町、一度きりの滞在をした町、通り過ぎていっただけの町、その地を訪れた回数や過ごした時間の多寡に関わらず、「さびしさ」を感じた町に惹かれる筆者の気持ちはなんとなくわかる気がする。ただ物珍しい、楽しいだけではなく、心の深いところにちくりとした感覚をもたらすような旅。2021/06/19
びっぐすとん
16
図書館本。初読作家さん(積読の中に著書はあるが)。こんなにあやふやな記憶で、特に名所でもない町について書かれた旅の本は読んだことがない。確かにさびしい。しかし普通の人々が暮らしている町ってそんなものだろう。我が町だって観光に来る人なんかいない。旅の途中、通りすぎる町を見るたびに「私にとっては全く知らない馴染みのない町(非日常)なのに、ここに住む人にとってはここが日常の町なんだ」ということがとても不思議なのを思い出す。旅に行きたくなる本というより天気が悪くて手持ち無沙汰な日に読むのが似合う本。2021/07/29
ぐっちー
11
こういう旅の物語、好きです。そう言われてみれば、と私にもさびしい町の記憶が次々と蘇ってくる、何年その街に住んだとしても、街からしてみれば私たちは結局通りすがりの影にすぎない。祝祭のような華やかものより、幻のような過去の記憶に人の心は沿うものなのだろう。2022/01/29