出版社内容情報
ぼくにできるのはお話をすることだけ。ラジオから届く、あの時代のヴォイス。JRAK、こちらパラオ放送局……。中島敦、大久保康雄らが接点をもった熱帯生物研究所。そこに流れるラジオ番組は「オールナイト・パラオ!」。謎のDJのトークが昭和史と文学史と奇想を巧みにリミックスし、ヒロヒトと南方熊楠、森鴎外ら戦前・戦中期の文化人たちとの密かな絆を謳いあげる。6年ぶりの大長篇小説。
内容説明
ラジオから届く、あの時代のヴォイス。謎のDJのトークが昭和史と文学史と奇想を巧みにリミックスし、ヒロヒトと南方熊楠、森〓外ら戦前・戦中期の文化人たちとの密かな絆を謳いあげる。6年ぶりの大長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
101
高橋源一郎の飛ぶ教室でDJゲンイチロウをずっと聞いてきていたので、ラジオ番組の内容を思い出しながら読み終えた。ラジオが始まったのは1925年大正14年のこと。ヒロヒトが森鴎外からラジオのことを教えられたのは史実かどうかわかりませんが、第二章震災の女たち、と第三章ぼくらは戦場に行った、は震災や戦争を経験した作家たちの文章を元に多くのエピソードを読み、人間の性を強く感じる。今は平和なこの国でも、いったん事があれば、すさまじい顔つきとなって無辜の民を虐殺することを厭わない歴史があったことを忘れてはならないのだ。2024/05/05
踊る猫
39
実に鮮やかに(それこそヴァルター・ベンヤミンばりのナイスなDJとしての凄腕を見せつけつつ)高橋源一郎は虚実・夢現を巧みに混交させて唯一無二のハイブリッドをこれでもかと繰り出していく。どんな切り口の分析にも耐えうる懐の深さと確かなメッセージ性を備えた骨太な思索の結晶だが、ぼく自身はここまで自在に改変された歴史(ナウシカさえもが重要な登場人物としてミックスされる)がしかし「デタラメ」かつ「無責任」なナンセンスに堕していないところにこの著者の愚直な姿勢を見る。天皇という語りにくい題材を呑み込むポップの底力に唸る2024/04/13
ケイトKATE
30
20世紀の日本を象徴する人物であるヒロヒト(昭和天皇)を起点に日本の歴史が語られる。私は、ラジオ番組『高橋源一郎の飛ぶ教室』と、『高橋源一郎と読む「戦争の向こう側」』を聞いているので、高橋源一郎が語っていた言葉や紹介していた本が『DJヒロヒト』に活かされていることに気付いた。歴史は、語られているものと語られていないものがある。高橋源一郎は、それらを掬い上げ大きな小説を作り上げた。終戦から80年が近づき体験者が去っている中、戦争のない時代が続くために、未来へ繋ないでいく決意が十分に伝わった。2024/07/04
えも
27
4つの章からなる、戦争の悲劇をテーマにした長編小説。というより、様々な断片からなる組曲といった感じ。いずれにせよ超大作です▼特に冒頭の、ヒロヒトと南方熊楠の会合が印象的。青年ヒロヒトの無垢な感性と好奇心が、博覧強記のクマグスと相通ずるものを持っているくだり。粘菌をはじめとする生物全体、あるいは森羅万象への敬意が、戦争へのアンチテーゼとしてこの組曲を貫く重低音となっています▼後半の、ラジオ放送が時空を超えて混線していく様もいい。中島敦と慰安婦MYとの純愛がね。2024/05/11
宮崎太郎(たろう屋)
9
途中何度かつまずきながら最終章までたどり着いた。タイトルがタイトルだから彼を中心に進むかと思えば様々な歴史の人物が戦争を場所を変え語り合っていく。語る人が変わるたびにその人の本を読んだり、映画を見たりするので本がなかなか進まなかった。金子文子、林芙美子、南方熊楠、中島敦、パラオの研究者たち、なもなき男と女。作者の情熱はさらに巻を進めていくことだろう。戦争によって傷ついたあらゆる人の声をもっと拾い上げDJは夜に声を電波に飛ばす。その重い役割を彼に託して。2024/06/15