出版社内容情報
彼女達の音楽は1986年のあの冬の空気の中にあった。幻のレコードとダブルベース、白い紙の荒野。消えゆくものをめぐる長篇小説。
拍手もほとんどない中、その二人組は登場した。ひとりはギターを弾きながら歌い、もうひとりは黙々とダブル・ベースを弾きつづけた。二人とも男の子みたいな女の子だった。彼女たちの音楽は1986年のあの冬の中にあった――。消えゆくものと、冬の音楽をめぐる長篇小説。
内容説明
ひとたび存在したものは、誰かの中で生きつづける―。拍手もほとんどない中、「ソラシドです」と二人組が現れた。ギターを弾きながら歌う彼女と、ひたすら黙々とダブル・ベースを弾く彼女。二人とも男の子みたいな女の子だった。消えゆくものと、「冬の音楽」をめぐる長編小説―。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による著作とデザインの仕事を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
105
☆7.0(5点満点ですが) 『ソラシド』のベクトルは、今と過去が睦み合う有向線分で表現され音楽を始点とし兄弟姉妹親子という家族の絆に辿り着く。 2021/05/19
風眠
98
過去には絶対に戻れない。だから人は失ってしまったものに憧れ続けるのだろう。けれど時間は前へ前へと進み、その変化に苦しくなる事もある。昔の私は幸せばかりじゃなかったし、今の私も不幸ばかりじゃない。けれど「あの頃」がキラキラして見えるのは、なぜだろう。「意見は言葉に出来るけど、思いは言葉になりにくいよね」と言うトオル。その「思い」を音楽に託したカオルとソラ。たった一枚のアセテート盤が時を越え、その時の熱量と想いが音となって立ち現れる。Don't Disturb Please、あの頃の私はもういないのだから。2018/10/13
なゆ
81
しまった。これは冬に読みたい小説かもしれない。灰色の冬空と、レコードのノイズ音が似合いそう。1986年うまれの妹オーと一緒に、1986年に存在した〝ソラシド〟という女性2人のユニットの消息を、わずかな情報から辿っていく話。その過程で、ちょっと複雑な家族の空気も変化していく。ちょっとずつソラシドの欠片を集めていきながら、当時よく聴いてたという曲もたくさん出て来るので、検索しながらその雰囲気を味わうのもいい感じ。ソラシドの情報から紡がれる物語は、バブルの時代の裏路地な感じも漂う。相変わらず、素敵な空気感。2015/05/16
ひめありす@灯れ松明の火
79
回転木馬よろしくレコードの上に載って、吉田篤弘さんの世界を見渡している様なそんな不思議な気分になって読みました。あっけない終わりを迎える紙屑の都の物語。サンドイッチとスープしか出ないお店。皿洗い長のいるアルバイト先。大きなおいしいピザ。解けない方が幸福な謎。黒猫。まずいコーヒー。1986年。吉田夫妻に長女の音ちゃんが生まれた日。『Don't Disturb,Please』確かに今のソラシドは終わってしまっているかもしれない。だけどDまで来たら、次のソラシドはもうすぐだから。冬の音楽がどこかから聴こえてくる2015/06/26
ユメ
77
作中の音楽をBGMにした著者のトークショーを聴き、宝物となった本。最初は敬愛する作家が過ごしてきた時間を疑似体験する感覚だったが、いつの間にか86年の「おれ」、現在の「おれ」、この作品について語る著者、複数の時間がひとつになった空間に取り込まれていた。現在への不満を裏返した懐古だけからでなく、あの時の「いま」を残しておこうとするために再生された音楽だから、こんなにのめり込んだのだろうか。私は、知らない時代の曇天の空気を吸って、聴いたことがないはずの冬の音楽を聴いていた。午後の微睡みのような、不思議な読書。2015/02/02