出版社内容情報
四十にして初の子を儲け、やがて五十を前に病を得た通信社記者の過去と現在。死を含んで続く人生のほのかな輝きを描く長篇小説。
内容説明
京都での学生時代、駆け出し記者だった頃の結婚、十年後の離婚、新たな家庭と四十を過ぎてはじめてもうけた一人息子。東日本大震災の激務を経ながら癌を患い、現役記者を続けて六年。最後の日々が、目前に近づいてくる―。五十を前にして病を得た記者に流れた三十年の歳月。大佛次郎賞受賞作家が、ままならない人生のほのかな輝きを描く最新長篇小説。
著者等紹介
黒川創[クロカワソウ]
1961年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業。99年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年刊『かもめの日』で読売文学賞、13年刊『国境“完全版”』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
秋 眉雄
20
死が目前に置かれた時、人の中には何が巡るのか。伝えられるものがある一方で、しかし、伝えないままにされる思いというものも間違いなくある筈です。その伝えなかったものはいったい何処に行くべきなのか。僕の父は55で余命宣告され、半年後の56で亡くなったんですが、今、自分自身が55になったことも重ね合わせて、何となく父の気持ちに寄り添うような、或いは探るような、そんな読書にもなりました。2021/08/29
たま
19
50台の新聞記者有馬章が、末期がんを抱え自分の人生を振り返る。結婚離婚再婚、数度の転勤とそこで経験する事件、そんなことがざっくり語られ、取材の対象(「戦争の輪郭線」)が本筋(?)から離れて詳しく述べられる。達意の文章が織り上げる濃密な小説世界を期待する読者には全くお勧めできないが、私自身は読み進むにつれ、自分の結婚転職転居、遭遇した震災、友の死など、ふだん忘れていることを次々に思い出し、心を揺さぶられた。一人一人の胸にあるのに語られず痕跡を残さないもの。ブラックホールの小宇宙のイメージが鮮烈。 2020/06/13
ムーミン2号
13
50歳を前にがんが発覚し、手術により大丈夫と思われた主人公(記者)は、5年後の検診で転移が確認され、余命が短いことも告げられる。次第に体力をなくし、日々痛みに耐えながら、自宅書斎でかつての取材ノートをめくる。そこから想起されたと思われるエピソードにより、彼のたどってきた人生ばかりか、第二次大戦にまで遡る人々の生き様を描いた作品。人生はままならないことばかりだが、自分が人生を振り返る時が来た際には、こんな落ち着いた、ほのかに明るい状態で迎えられるだろうか?2020/05/03
hasegawa noboru
12
最後の第Ⅳ章まで来て主人公の生涯の全貌が浮かび上がるという構成。五三歳の身にがんが<再発、転移して、余命宣告まで受けた>今となって、死は<痛みや醜態も伴い、生の具体的な道程の一つと>見えてくる。<この世界で生きて経験してきたことは、自分の死をもって、闇の中に戻るのかもしれない。だが、人が生きて何かを考えてきた痕跡は>湖西朽木谷に「白子の王子」伝説が残るがごとく<小さなともしびとして、それは、命ある者たちを導く。>主人公が通信社記者として取材対象とした事件、人物について歴史の痕跡をたどる風に直接語る部分が2021/11/12
チェアー
12
暗い林を抜けると、そこには雲ひとつない青空があるのか。それともまた別の林があるのか。それは抜けてみないと分からない。でも、暗い林は落ち着く。怖いものがいないから。人間がいないから。 人は人とどこでどうやって出会い、どうやって別れるのか予想もできない。少しの出会いや別れが人生を大きく変えるのに。そして、去りたくない場から連れ去られる。 すべての文章の底にある静かな悲しみにひかれる。2020/06/27
-
- 和書
- 動物 学研の図鑑LIVE