出版社内容情報
終戦時の房総、世界各国の放浪、作家デビュー……『二十五年後の読書』(10月刊)と連続刊行、著者の原点と歳月を刻む記念碑的長篇戦後の房総半島からヨーロッパ、アジア、そして日本で。そこでは灰色の人生も輝き、沸々と命が燃えていた。あのとき、自分を生きる日々がはじまった――。縁あって若い者と語らううち、作家高橋光洋の古い記憶のフィルムがまわり始める。戦後、父と母を失い、家庭は崩壊、就職先で垣間見た社会の表裏、未だ見ぬものに憧れて漂泊したパリ、コスタ・デル・ソル、フィリピンの日々と異国で生きる人々、40歳の死線を越えてからのデビュー、生みの苦しみ。著者の原点と歳月を刻む書下ろし長篇。
乙川 優三郎[オトカワ ユウザブロウ]
著・文・その他
内容説明
その旅は聖地のない巡礼であった。高橋光洋の古い記憶のフィルムがまわりはじめる。終戦後の混沌と喪失、漂泊したパリ、マラガ、マニラの日々、死線を越えてからの小説家デビュー…。
著者等紹介
乙川優三郎[オトカワユウザブロウ]
1953年東京生まれ。ホテル勤務などを経て1996年小説家デビュー。2001年『五年の梅』で山本周五郎賞。2002年『生きる』で直木三十五賞。2013年初の現代小説『脊梁山脈』で大佛次郎賞。2016年『太陽は気を失う』で芸術選奨文部科学大臣賞。2017年『ロゴスの市』で島清恋愛文学賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南雲吾朗
68
「25年後の読書」の中で、すごく絶賛されていた本なので大丈夫なのかなっと危惧していたが予想以上に素晴らしい作品であった。作家は、ひとつの文章を書くために数万という表現から厳選し更にそれを削って洗練させていく。まさに生命を削って文章を練り上げていく苦悩。そうして出来た文章は、そんな苦労を気付かないほど流暢に流れ自然である。「良い文章は引っかからないもの」と作中に書いてある。良い日本酒ほど水に近いという感覚と似ているのだろうか。終盤はちょっと駆け足で進む展開のように感じられちょっと残念。良書であった。2019/08/05
キムチ27
59
読みつつ かつて読んだ佐江さんの黄落の1シーンを思い出した‥装丁の為かも知れぬが。究極の美を目す三枝が小説の主人公(光洋)の紡ぐ言葉、在り様に託し人生の埋火の情景を描く。10の短編は幾つか国内での暮らしを綴っているが大半は欧州、東南アジア等の豊かでない人々の中に場を置いている。何れのシーンでも「老い」が漂う、デラシネの如く。完璧な小説と?駄文の海に沈まざるを得ないのは己の業か~ラストの章は光洋の絶望的な呻きすら聞こえそうなヒリヒリ感。背後に乙川氏の像も浮かび、次なる文が如何なる像を結ぶか・・些か痛い想いも2019/02/05
KEI
58
71歳の作家・高橋光洋が若き日の貧しい家族、製鉄所での暮らし、各国を放浪し、それを土壌に物を書く仕事に腐心しながらより自分らしい文体を求める為に命を削る様な姿に、著者の本音を描いているかの様に感じた。家政婦から養女となったソニアが日本に来た経緯や早生した妻 早苗への哀惜の念には心を打たれた。まさに副題の「 After years wandering」がぴったりの作品だった。2019/08/22
クリママ
53
「二十五年後の読書」の作家が描いた作品と言う設定だが、乙川自身の私小説のようにも思われる。フィリピン人の年若い家政婦と暮らす71歳の老作家が、若い日、製鉄所を辞め、パリ、コスタ・デル・ソル、フィリピンを漂泊した日々を回想する。特に独裁者マルコスの腐敗した政権下、貧しく暮らしながらも懸命かつ賢明に暮らす人達が印象的だ。また、作家として完璧な一行を生み出す苦しみについても描かれている。肉親に対しての辛辣な言葉が気になったが、淡々とした表現の中、豊かな情感が溢れる作品だった。2019/04/02
トラキチ
41
作者の作品はじっくりその日本語の美しさをじっくり堪能して読むべき作品であり、必ず心に沁みるフレーズがあって読書の楽しみを倍増させてくれるのであるが、本作はそれにも増して沢山の素敵な女性たちが登場し、男性読者目線で言えばより深みのある乙川文学を体感できる。 70代の病弱な作家が自分の人生を振り返ってゆく姿が描かれているが、ヨーロッパからフィリピンを舞台にしたあたりが本当に奥が深く、主人公の人格を形成するにあたっていかに生きてきたかを真摯に振り返る様はやはり満たされた人生だったと確信しているように感じ取れた 2019/02/10