出版社内容情報
清らかな水と水銀を司る神霊に守られて吉野の地に生きる草壁皇子の物語――中篇「丹生都比売亅と短篇8篇を収録する初の作品集。
胸奥の深い森へと還って行く。見失っていた自分に立ち返るために……。蘇りの水と水銀を司る神霊に守られて吉野の地に生きる草壁皇子の物語――歴史に材をとった中篇「丹生都比売」と、「月と潮騒」「トウネンの耳」「カコの話」「本棚にならぶ」「旅行鞄のなかから」「コート」「夏の朝」「ハクガン異聞」、1994年から2011年の8篇の作品を収録する、初めての作品集。しずかに澄みわたる、梨木香歩の小説世界。
内容説明
しずかに澄み渡る梨木香歩の小説世界。短篇9篇を収録する、初めての作品集。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
風眠
240
夢と現を行きつ戻りつしているような、うつらうつらとした美しい物語たち。殊更にドラマチックではなくとも「私」と「どこか」は繋がっていて、目には見えない壮大な何かが静かに沁み渡るよう。「私は、そこに、いたのだ。ーーー胸奥の深い森へと還って行くものがたり。」という帯の文そのままの短篇集。小さな女の子の心と体の成長をガンダムモビルスーツと春と夏で表現した『夏の朝』。美しく荘厳な宇宙を描いた草壁皇子の物語『丹生都比売』。姉妹でお揃いのコートを順に重ねていくことで死別という哀しみを表現した『コート』の3篇が特に好き。2014/10/30
文庫フリーク@灯れ松明の火
144
ミステリーに「日常の謎」というジャンルがあるなら、この作品集は極めて鮮度の高い、かぶりつくと芳醇な果汁が溢るる「日常の幻想」 私の家の近くに池は無いが堰なら有る。カコは釣れるだろうか?化石のようなカコは小さな人魚に戻ってローレライを歌ってくれるだろうか?「カコの話」 姉とお揃いだったコートを、幼い頃の小さなサイズから順繰りに着せこむ。裾のかすかなたるみは私が姉にしがみついていた跡。「おねぇちゃん」の言葉に、北村薫さんの『夜の蝉』が浮かぶ。「コート」 もしも何かにぶつかる度に、衝撃で身体が欠落して→ 2014/10/16
ちはや@灯れ松明の火
140
一羽の鳥が飛ぶためにいくつ生命がいるだろう。流れる水のうたう声、土は炎に炙られて水で洗われ水銀に、ぬばたまの闇にきらめく星となる。血で繋がれて血で塗り潰される貴い縁、ただ遺そうと願うゆえ。苛烈な夏に晒されてやわらかな草は萎れゆく、求める姿になれないと。花が一輪咲くまでにどれだけの葉が落ちるのか。移ろう水のおどる音、生命を救う丹薬も生命を奪う猛毒も、水銀の星から出でて散ったもの。月に焦がれた潮がさざめく、過去を湛えた池がささやく。天土を統べる君がため、生も死も清けき水にとけあって、かの地の裡によみがえる。 2015/01/31
みっちゃん
138
読み終わり、暫くぼお〜っとしていた。美しい夢を見た後のような。大事な啓示を受けたように思うのに、巧く言い表せられぬ自分がもどかしい。作者は、現世の日常のあちこちに、あちらの世界への扉をいとも簡単に見つけ、易々と開けてしまう種族の一員に違いあるまい。美しい表題作にも心が震えたが、少女夏を見守る「わたし」の正体に胸が熱くなり、およそ梨木作品とは縁遠そうな「モビルスーツ」の比喩の巧みさに唸らされた【夏の朝】が一番好きだ。2015/09/14
なゆ
137
掌編あり中編ありで長さもいろいろな珠玉の短編集。静かに、穏やかに、どこか異界を思わせるものがあったり、渡り鳥を思わせるもの、旅、本、蔓、どこを切り取っても梨木さんならではの世界が。なかでも、表題作「丹生都比売」が読めたことが嬉しい。とても寂しく切ない話だったけれども。「カコの話」の不思議で面白くてちょっとヒヤッとする感じ。「コート」の5ページに濃縮された、姉妹の想い。「夏の朝」のラスト7行の清冽さ。話それぞれが様々にひそやかに煌めいて、なんと豪華な作品集だろう。潔いほどにシンプルな装丁が心地よい。2014/11/14