出版社内容情報
【日蓮生誕八〇〇年】この男、救国の聖人か。過激な狂信者か。天災と疫病に苦しむ民を救うため、権力者と戦い続けた半生を描く感動作
内容説明
鎌倉時代中期。世上は鎌倉大震災を皮切りに天変地異に見舞われ、疫病が蔓延し、飢饉に苦しめられていた。その原因を仏典から解き明かそうとした僧侶・日蓮は、世の為政者が悪法に染まっているため、民を救うはずの仏や善神がこの国を去ってしまったからだと結論づける。至高の経典である「法華経」に帰依しなければ、さらなる厄災が起こる―日蓮は、鋭い舌鋒で他宗に法論を挑んでいくが、それは同時に、浄土宗や禅宗を重用する幕府の執権、北条氏を敵に回すことでもあった。疫病、星の乱れ、日蝕月蝕、暴風雨、日照り―「薬師経」に予言された七難のうち、未だ起こっていないのは「他国侵略」と「内乱」のみ。日蓮の思いは天に届くのか。苦しむ人々を救うため権力者たちと戦い続けたその半生を描く感動作。
著者等紹介
佐藤賢一[サトウケンイチ]
1968(昭和43)年、山形県鶴岡市生れ。東北大学大学院でフランス中世史を専攻する。1993(平成5)年、『ジャガーになった男』で、小説すばる新人賞を受賞。1999年、『王妃の離婚』で直木賞を受賞。2014年、『小説フランス革命』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。2020(令和2)年、『ナポレオン』全三巻で、司馬遼太郎賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
99
日蓮がこの小説のような人物なら、あれだけ烈しい迫害を受けたのも納得できる気がする。法然を貶し、禅宗、真言宗を否定し、ただ法華経のみが正しいと言う。元寇を見事に予言した日蓮を、流罪先の佐渡から呼び戻し、寺を建て保護してやると言う幕府の提案に、他宗を禁じる約束をしない限り受諾できないと言い張る強情。宗教的な信念は立派だが、人間としての、この不器用さ、可愛げのなさ、空気の読めなさが歯痒くて、イライラしつつ読む生涯だった。でもそれは、「信念」を失って社会に迎合する技ばかりを身につけた現代人ゆえの感想かもしれない。2021/03/30
さつき
84
日蓮関連の史跡や伝承は周囲に沢山あるのですが知らないことばかりでした。法難という言葉は聞いたことはありましたが、まさか四度もあったとは!それだけの迫害を受けたのに、というより受けたからこそ信念はいよいよ堅固なものになったのでしょうか。揺らぐことのない確信を持ち続け、凡夫には窮地としか思えない苦難さえ、法論のための好機であり、国主を諌める契機と捉える姿勢は誰にも真似できない。既存の権力に媚びずいくら叩かれてもへこたれない。この情熱はいったいどこからくるんだろう?あまりにエネルギッシュな人生に呆然としました。2021/10/13
パトラッシュ
82
佐藤賢一が選ぶ主人公は、洋の東西を問わず己の信念を貫く人間だ。ハンニバル、デュ・ゲクラン、信長にナポレオンなど激動の時代に天命を受けたとしか思えない面々が信じるままに戦って人びとをひきつける姿を描き続けてきた。今作の日蓮も同じ系譜に属するが、武将や政治家ではなく宗教家だけに信仰への確信に突き動かされた熱情(パッション)はより激烈だ。こうしたカリスマ性の高い「革命家」だけが未来が見えない不安な世を打ち破れるのだろうが、同時に他者を顧みない独善性も容赦なく描く。時代の転換点に求められる人材を問いたかったのか。2021/03/31
hiace9000
47
原題「パッション」。意外にも日蓮系団体との折り合いの悪さしか印象にない新潮社⁉︎からの発刊。鎌倉仏教界の革命家日蓮の波乱に富む受難の生涯を史実を元に綴る。参考文献が一切記されていないが、史観・人物観の角度には一定以上のバイアスは感じる。法華経経典の要文からの引用も多数で、日蓮の言に理の説得力はあり。立宗以前、また虚空会・発迹顕本後の日蓮にあったであろう現実との葛藤や衆生・門下に対する慈悲の行動に、作者のフィクショナルな見解が織り込まれると、広宣流布に賭した日蓮の生涯と人間的魅力が伝わったのでは、とも思う。2021/09/15
ネギっ子gen
37
ヨーロッパの歴史小説を多く手掛ける直木賞作家。近年は日本を舞台にした作品もあるが、そうですか日蓮聖人ですか(日本の知識人・文化人の伝統芸――日本回帰的な)という感慨を持ったものの、『小説新潮』に連載した「パッション」を改題したものと判明し、その題で一寸納得。当時の政治、社会状況を土台に、天変地異や疫病に苦しむ人々を救おうと、経典を博引旁証して救世の論理が明快に語られる。波乱の生涯を劇的に追うのではなく、聖人の教学を柱とした作品になっている。聖人の生い立ちと教学の関係が感じられる場面もあるなどが興味深い。⇒2021/04/05