出版社内容情報
時空を超え、鮮烈に蘇る古の声、声、声。髙村文学の極限と愉楽がここに。老いて死に瀕した一人の男が、意識の塊と化して長い仮死の夢を見る。そこに沸き立つのは高らかな万葉びとの声、野辺送りの声、笑い転げる兎や蛙の声、源氏の男君女君の声、都を駆けるつわものたちの声、定家ら歌詠みたちの声、そして名もなき女たちの声――。古文と現代文の自在な往還を試みた独創的文体、渾身の長篇小説。
内容説明
老いて死に瀕した一人の男が、意識の塊と化して長い長い仮死の夢を見る。そこに沸き立つのは高らかな万葉びとの声、野辺送りの声、笑い転げる兎や蛙の声、源氏物語や伊勢物語の声、古今・新古今の歌の声、都を駆けるつわものたちの声、そして名もなき女たちの声―。古文と現代文の自在な往還を試みた渾身の長編小説。
著者等紹介
〓村薫[タカムラカオル]
1953年生まれ。1990年『黄金を抱いて翔べ』でデビュー。1993年『マークスの山』で直木賞受賞。1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞受賞。2010年『太陽を曳く馬』で読売文学賞受賞。2017年『土の記』で野間文芸賞・大佛次郎賞・毎日芸術賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
165
高村 薫は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 本書は、著者の新境地でしょうか、過去と現在、時空を超えたSF古典日本文学共鳴譚でした。 https://www.shinchosha.co.jp/book/378411/2025/04/12
KAZOO
91
今までの高村さんの作品とは一線を画すような話でした。ある人物の死ぬ間際の想いや過去の人物などが一人語りしていくような感じです。様々な古典などの引用も出てきます。筋があるようなないような感じですが私は嫌いではありません。仏教の空海や永平寺の話などは今までの作品にも出てきましtが、それとも異なる感じでした。最初のほうは昔読んだ折口信夫の「死者の書」を思いだしました。2025/04/03
藤月はな(灯れ松明の火)
59
高村薫版『死者の書』×『失われた時を求めて』。死に瀕した男が揺蕩うのは時が乱雑に混じり、蘇る人間関係とそれに付随する文化の記憶の世界である。筆致は福田家サーガを彷彿とさせながらも古文や物語、時代のサブカルチャーなども展開される為、(個人的に)大分、キャッチーだ。ふとしたきっかけで記憶が芋蔓式で蘇るというありがちな事を綿密に言語化できる事に感嘆しか出ない。「私もいずれはこうなるのかな」と思わせる説得力を帯びている。また、祖父の気質を継いでいたであろう娘、ひなへの哀悼と凄みを帯びた能楽者でありつつも2025/04/16
がらくたどん
53
高村薫は大好きだがたまにヤバいのに手を出しちゃった(汗)と途方に暮れる事がある。本作は古希を過ぎて死期迫る一人の男の今わの際の走馬灯。記憶の箍が外れ、時制はおろか実体験の記憶も夥しい古典籍・能狂言由来の記憶も分かりやすい分類秩序から解き放たれて流れ出す。狂って縊死した祖父の姿と実直な勤め人人生の中で夢想し続けた定家の姿が同等の実人生の軌跡として甦りてんでに連なる記憶を呼び覚ます。この記憶の奔流には因果と帰結で整頓された「ストーリー」の代わりに彼が出会った芳醇な音と映像のリアルがある♪読後の疲労は心地よい2025/04/29
竹園和明
42
長年裁判所で速記の仕事を生業にしていた男が死に瀕した際、脳内を駆け巡ったもの。自身の記憶は勿論、奈良時代平安時代の和歌や源氏物語等が芋づる式に浮かんでは消え浮遊する様子が連綿と綴られた作品だ。表層では家族や仕事上での問題等に苦悩した彼だが、その一方、それらの縛りが解けた意識は次々と自在に潜在意識を呼び起こす。それらが交互に浮かんでは沈むという臨死体験のような不思議な読書だった。新聞等では我が国の劣化した政治や文化を舌鋒鋭く論じる著者だが、やはり並の作家には到底書けない威風堂々たる作品だった。2025/04/26
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