内容説明
熱情と沈着とを一身に兼ね備えて人間世間にしがらむ矛盾撞着と必死に切り結ぶ、70年の遍歴。古代ギリシャ学の泰斗から電車内で隣り合わせたある老女性まで、深く心に残る人々との、出会いと別れ。出自である北辺の地にまつわる、幾つもの忘れがたい出来事。真剣な冗談と苦難の愉悦に満ちた、人生という旅の経緯を悲哀まじりの滑稽といった感情とともに叙し、社会に生きる言葉の動物―人間にとっての記憶と経験の真の意義を、自身の内奥に検証する試行。記憶と経験の信義を問い直す自伝的連作考量。
目次
憶い出の星座(死ぬのは恐いことじゃない;勇者は滅びぬ ほか)
北帰行の記録(北陸から北海へ;深諦の人生;錐一本で身構える;清教主義の修行者 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
35
西部邁の書くエッセイは面白い。だがそれは器用に「ネタ」をこねくり回して転がすたぐいの面白さではなく、含羞を込めた美学を不器用に打ち出す面白さであり意外とその意味ではオールドスクールな文学と相性がいいのかもしれない。このエッセイ集を虚心に読めば、そこから現れてくるのは(あえて凡庸な紋切り型に乗っかるなら)軟弱な「文学青年」とは異なる剛毅な男の姿だ。だがその思考の根本にあったのは連綿と続く伝統の流れのさなかに自らを置き、その中から自らの立ち位置を見つめ直す作法、そしてそこから言葉をつむぐ作法だったのではないか2024/11/08
踊る猫
33
「枯淡」という言葉が似合うと思った。夏目漱石や古井由吉の随筆にも似た、ひたすら孤独に内省・内観を深める態度を感じたのだ。ほんらいドン・キホーテとサンチョ・パンサという「おかしな2人」を「一挙に」自らの内に引き入れようとする野心をみなぎらせた書と読むのが妥当とぼくは思うのだけど、それが正しいとするなら西部邁とは良かれ悪しかれ「つるめない」人、「ごまかせない」人だったということになろう。他者との関係の中で「なあなあ」の折り合いをつけていく処世術ではなく、自らの個としての感性・批評性を研ぎ澄ませる。がゆえの孤独2023/11/12
踊る猫
28
保守思想の要諦とは、ぼくたちが保持する共通認識としての文化や伝統(西部言うところの「コモン」なもの)を重んじることだろう。だが、本書を虚心に読むとそうした「コモン」に西部はどこかなじめないものを感じているかのようだ。西部という人はその桁外れの知性ゆえにこの社会の「コモン」を見抜くことはあれど、その「コモン」を信じ込む熱狂的な忘我からも距離を起き「コモン」の内実についてその知性を休めさせず考え抜く。だから彼にとっては保守思想は(当たり前だが)考えを進めるスタート地点ではあれどゴールではなかったのだなと考える2024/04/24
まめなやつ【多摩市多摩センター整体マッサージ】
3
左翼活動にはまると身内が不幸になる。早めに足を洗うとそれなりに幸せになれる。ということがわかった。2014/02/17
夢仙人
2
多少元学者ヤクザの西部氏を思っていたが、氏の家族関係、苦学を知ると反骨精神の塊である理由がわかる。人間的にも豊かな人だなーー。2010/10/20
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