出版社内容情報
大切なひとを守るとき、私は刀を選ばない。若き私塾の主が仰ぐ、これから。お役目がなく学問で身を立てることもできない淳之介は、幼なじみの同心から頼まれたある娘の見張りをきっかけに、攘夷の渦中へと?み込まれてゆく。徳川の世しか知らないながらも、武士という身分に疑問を抱き始めた青年がようやく見つけた、次代につながる道とは。生へのひたむきな問いが胸を打つ、人間味溢れる時代小説。
内容説明
お役目がなく武芸はからっきし、学問で身を立てたいが時流には乗れない茅野淳之介は、幼なじみの同心から頼まれたある娘の見張りをきっかけに、攘夷の渦中へと呑み込まれてゆく。徳川の世しか知らないながらも、武士という身分に疑問を抱き始めた青年が、近しい人々の非業の死を乗り越えようやく見つけた、次代につながる道とは―。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hiace9000
142
激しい時流に人は抗し切れず、流れに従うことは果たして敗北か。徳川の世も終焉の幕末期、学問所を開くも閑古鳥、武芸はからっきし、母にも頭が上がらぬ武士・茅野淳之介。公儀に抗わず生きてきた淳之介は、知己の同心の手引きで密偵仕事を引き受けたことから、凶刃振るう攘夷の動乱に巻き込まれることに…。身に降りかる数々の災禍を経て彼が見つけたものとはー。歴史が大きく動く時、何かを守り生きた人々の直向きさと優しさを描く今作。波瀾と激情に富む展開も淳之介の飄々たる視点は穏やかさを醸す。人情もの時代小説の範疇を超える良作だった。2025/06/27
たま
78
題名と表紙から定番の時代小説(閉じられた世間)を予期していたら、主人公の淳之介が幕末の騒動にどんどん巻き込まれ驚く。最後の章は明治10年、冒頭の幕末から30年、維新をまたぐ時間設定が珍しい(最近読んだ『下垣内教授の江戸』もそうだったが。)微禄の幕臣の淳之介が攘夷討幕に巻き込まれる、その受け身の有り方にも、多くの普通の人はこんなふうだったのだろうなと思う。ただもう少し淳之介の性格が強くても良かったかと思う。私の記憶の中の明治生まれの祖父は(普通の人だが)男として、家長としての気構えがずっと強烈だったので。2025/05/10
タイ子
76
幕末の世の中は攘夷と声高に叫ぶ者たちの中で主人公の茅野淳之介は学問第一に静かに暮らしている。武芸は苦手、私塾を開いても塾生は来ず、たまに彼の元に幼馴染の同心が事件の手伝いを依頼にくる。登場人物たちのキャラが面白い。淳之介の母親が強気一辺倒、彼女には逆らえない。幼馴染で今や親友の妻となった女性、潜入捜査で縁を結んだ芸者。逞しく生きる女性の強さがまぶしい。静かに暮らしたいのに時代の奔流に巻き込まれる淳之介。そして、幼い子が犠牲になる悲しい事件は涙が溢れる。激動を経て新時代の希望を感じるラストに感動。2025/07/12
がらくたどん
66
徳川治世の行き詰まりと強引な外圧に不安と不満で人心が憤怒に悶えた幕末。「己が意見と異なる者を楽しむ」寛容をいつか身に着けたいと「己の為の」学問に励むしか取り柄がない無役御家人淳之介は、親友で八丁堀同心の依頼で密偵の真似事をするうちに攘夷・倒幕・尊皇と人々の憤怒を吸い上げる「大義」の渦に巻き込まれていく。攘夷の先鋒隊・冤罪で放り込まれた牢内・彰義隊の野営地そして自刃した父の朋友宅で、彼は己の憤怒とも向きう事に。憤も怒も人の心の大事な姿。それを義で飾る事の危うさと憤怒を乗り越えた先の寛容を問う。静かな力作♪2025/02/10
つーこ
33
歴史が動く時、普通に生きている人は何を想うのか。幕末の志士でもなく幕府でもないそんな市井の人々が描かれていて、とても興味深かった。生活の変化や別れなど様々で血生臭い場面もあったけど、概ねほのぼのしていた。2025/04/04
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