出版社内容情報
己は人間のなりをした何ものか――人と獣の理屈なき命の応酬の果てには。明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河﨑流動物文学の最高到達点!!
内容説明
死に損ねて、かといって生き損ねて、ならば己は人間ではない。人間のなりをしながら、最早違う生き物だ。明治後期、人里離れた山中で犬を相棒にひとり狩猟をして生きていた熊爪は、ある日、血痕を辿った先で負傷した男を見つける。男は、冬眠していない熊「穴持たず」を追っていたと言うが…。人と獣の業と悲哀を織り交ぜた、理屈なき命の応酬の果ては―令和の熊文学の最高到達点!!
著者等紹介
河崎秋子[カワサキアキコ]
1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、同作で15年度JRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞、20年『土に贖う』で第39回新田次郎文学賞を受賞。他書に『絞め殺しの樹』(直木賞候補作)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夢追人009
654
明治中期の北海道の山中で一人で野生動物を狩る猟をして暮らす孤高の男・熊爪が人生で初めての試練に遭遇した。圧倒的に手強い熊・穴持たず(冬眠していない熊)との壮絶な戦い。傷つきながらも全く怯むことなく強大な宿敵との勝負に人生のすべてを賭けて一心不乱にのめり込んでいく熊爪の気魄に心を鷲掴みにされました。人と熊との一騎打ちの場面には時間を忘れて没入し凄まじい迫力の描写には深く感動しましたね。彼は生涯を賭けた一世一代の大仕事を終えた後にとうとう予期せぬ最期を迎えた時にも何の悔いもなく心から大満足だったと思いますね。2024/01/31
ミカママ
633
いやはやとにかくなまぐさい作品を読まされた。人間の殺害・虐待シーンはオッケーなわたしも、動物へのソレはダメ。これも初っ端の鹿撃ちから始まりやめようかと思ったが、まぁその辺は片目で読み飛ばして。タイトルの意味と、主(ぬし)に飼われたワンコの行く末が気がかりで。これを女性作家が描いたのか、と目を見張る思いだったが、ラストにおいて納得。個人的に読みにくいシーンも多かったものの、身近な人の顔を思い浮かべて、彼らに読ませたいと感じた一冊。2024/11/28
青乃108号
588
山に生きる男、熊爪。彼の生はまさに獣のそれであり、人間の世界とは相容れない。猛々しく、臭く、汚い。熊爪は熊同士の闘いに巻き込まれ背骨を折る。不本意ながら麓の町の人間の世話になり逗留し回復する。その家にいる盲の少女、陽子。彼女に惹かれながらも傷の癒えた熊爪は山に戻る。ひたすら熊、赤毛を狩る事だけを目的として彼は山で生きる。ついに赤毛と邂逅。彼は熊を仕留める、熊は最後の一撃で熊爪を叩き潰さんとするが叶わず絶命。熊爪は熊に殺されたかった。そこから先の物語は熊爪には不本意なものであり、結末は俺にも不本意だった。2024/08/20
starbro
587
第170回直木賞候補作第四弾(4/6)、河﨑 秋子、前候補作に続いて2作目です。明治時代のマタギを主人公にしたプリミティブで凄まじい圧倒的な作品でした。このまま直木賞受賞でも納得ですが、受賞作で話題を作って本を売りたい日本文学振興会の加藤 シゲアキ受賞の思惑に果たして勝てるでしょうか❓ https://www.shinchosha.co.jp/book/355341/2023/12/20
パトラッシュ
587
人と動物の関わりをテーマにしてきた河﨑秋子だが、これはもはや動物小説ではない。明治の北海道を舞台に、人が動物と化す姿を描いていくのだ。山で猟師として生きる熊爪は、捕食者の最高位に君臨する肉食獣そのものに思えてくる。そんな熊爪に影響されてか、周囲も少しずつタガが外れて壊れていく。商人の良輔は真っ当な道を踏み外し、熊爪の女になった盲目の陽子は生まれた子に名前をつけようともしない。陽子に殺され動物のエサになると悟った熊爪は、満たされて死んでいく。激変する世に背を向けて共喰いする男女には、原始的な恐怖すら覚える。2023/12/13