出版社内容情報
高瀬隼子氏推薦! 痴漢加害と介護のリアルを抉り出すブルドーザー小説集! 保険営業所に勤める藤原は、通勤電車で見かける少女に日々「元気」をもらっていた。ある日、同じ少女を盗撮する男との奇妙な交流が始まりーー。痴漢加害者の心理を容赦なく晒す表題作と、介護現場の暴力を克明に刻む新潮新人賞受賞作を収録。愚かさから目を背けたいのに一文字ごとに飲み込まれる、弩級の小説体験!
内容説明
保険営業所に勤める藤原は、通勤電車で見かける少女に「元気」をもらっていた。ある日、同じ少女を盗撮していた男との奇妙な交流が始まり…。―「狭間の者たちへ」介護士として過酷な労働をこなす興毅は、老人「89」の発言をきっかけに、戦時下の兵士たちの蛮行をとらえた写真に魅了され、依存していく。戦争と介護の闇が交差する勇猛果敢なデビュー作。―「尾を喰う蛇」忌まわしい世界から目を背けたいのに一文字ごとに飲み込まれる、弩級の小説体験。
著者等紹介
中西智佐乃[ナカニシチサノ]
1985年、大阪府生まれ。同志社大学文学部卒。2019年、「尾を喰う蛇」で新潮新人賞を受賞しデビュー。21年、「祈りの痕」を発表、女性労働者の連帯を描いた作品として話題になる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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fwhd8325
68
表題作と新潮新人賞を受賞した「尾を喰う蛇」の2編。どちらも息苦しい作品でした。いわゆる閉塞感という表現ではなく、袋小路から抜け出せないような感覚です。それでもこの2つの物語は目を背けられない現実があります。男性が書かれているものと思いながら読んでいたのですが、これが女性の作品と知り、吃驚しました。2023/10/02
ででんでん
67
読み終えても、2篇の主人公が落ち込みかけた(落ち込んでしまった)狭間から抜け出せるような気には1ミリもならず、重苦しさは消えない。「自分が周囲からどのように見えているのか」の認識がズレつつある彼らが、今後ズレを修正できるようにも思えない。ふたりとも確かに容易ではない労働環境にあり、周囲に優しく接する余裕など、どこからも絞り出せないのかもしれないけれど。酸素が薄く、口をパクパクし続けるような物語世界だった。2023/08/08
萩
66
2作収録。『狭間の者たちへ』→チカン・アカン!!痴漢が主役の小説なんて共感できるわけないやん。主人公の中年男は通勤電車で女子高生の匂いを嗅いで勃起する。「触っていない」から自分は痴漢ではないという自覚。彼女から元気を貰っているだけ。キモすぎる。ただこの男の人生のどん詰まり感が凄まじい。仕事は無能、家庭は地獄。ただそれも「全部お前のせいなんやで」と言いたい。一生この男は気づかないだろう。『尾を喰う蛇』→前作よりもさらに上を行くキモさ。介護現場にて凶暴性を秘めた介護士。個人的にはこちらの方が気味が悪かった。2024/02/10
えんちゃん
65
通勤中に女子高生の匂いを嗅ぎ元気をもらっている中年男性。同僚パートや要介護老人に圧をかける介護職青年。その心理は犯罪か否か。狭間で揺れる人間模様の中編2作品。もっと軽く笑うつもりだったけれど、笑える一線を超えてしまって、なんだか居心地の悪さが残った。余裕がないギリギリの状態でも自分は聖人でいられるかを問う。重たくて読み応えあり。2024/03/07
チャーリブ
50
新聞の書評を読んで。表題作と、新潮新人賞受賞作の「尾を喰う蛇」が収められています。いずれも主人公は男性で、歪な価値観の持ち主としか言いようがない人たちですが、共通するのは「肥大化する被害者意識」でしょうか。その「加害者」は妻、恋人、家族、同僚、上司、患者などですが、多くは女性です。「狭間」というのは、人間としての境界線なのか、社会的階層なのか。両義的なものとして読みました。救いや共感のない読後はさびしいですね。2023/08/04