出版社内容情報
蛹のなかに拘束され、羽化=自由を夢見る男。不条理なディストピアから逃れるため命懸けでふざけるが……。注目作家の放つ新境地作!
内容説明
理不尽な世界から逃れるため、男は命懸けで道化を演じるが―。注目の新人作家が圧倒的力量で放つ、ディストピア小説の傑作!
著者等紹介
金子薫[カネコカオル]
1990年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業、同大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。2014年、『アルタッドに捧ぐ』で第51回文藝賞を受賞しデビュー。2018年、第11回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。同年、『双子は驢馬に跨がって』で第40回野間文芸新人賞受賞。2019年、『壺中に天あり獣あり』で第32回三島由紀夫賞候補(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
276
金子薫は24歳の時に『アルタッドに捧ぐ』でデビューし、文藝賞を受賞。その後、5つの長編を上梓しているが、これはその五作目。私にとっては4作目なのだが、若い作家の中では最も注目している一人である。残念ながら芥川賞は取り損ねたようだ。さて、この作品だが、オープニングは様々な意味で衝撃的である。内容もそうだが、その語りの斬新さにおいても。ただ、長編を支え切るには、緊張の持続が難しいようだ。したがって、アレッキニーノへの変身や、舞台の設定など新しい要素を加えては行くのだが、冒頭が印象的過ぎたことが逆に⇒2025/01/13
アキ
87
蛹の中で汚物まみれで吊り下げられている。蝶になるまで何か月も。拘束を解かれた機械工は地下世界で人工の蝶を作り始める。理由もなく監督官に鉄の棒で殴られながら。主人公は理不尽な人工世界に、自然に道化師アルレッキーノになって生きる術を体得する。仲間を増やし、天空座を立ち上げる。そこで天野は選ばれて地下の街に住人として認められる。しかしそこで現実か夢か、嘘か真実かわからないまま、揚羽蝶になり天高く飛んでいくことを夢想している。地下世界を舞台にした胡蝶の夢を連想させるSF小説でした。独特な世界の金子薫初体験でした。2021/10/04
Koichiro Minematsu
46
生きている無意味なのか、死んでいる無意味なのか。全てが無意味なディストピア小説。どこに、何に命を見出せばいいのか。2022/01/22
マリリン
42
蛹(拘束具)の中は母親の胎内なのか。そう捉えると、空理空論であっても背後の思想が見えてくる事で、俄然作品が面白くなる。作品の中に天・人・地をさりげなく据えているような。監察官に打たれつつ道化として生きる道を見出した先に、揚羽が舞う世界の構築を夢見たのか。疲労し苦悩し、再び蛹の中に戻るのは、前作「鳥打ちも夜更けには」(3回読んだ)により絶たれた天野の生命が甦る物語と思ったが、再び蛹の中に帰す。次作が楽しみだ。尾を切られた蜥蜴のように再生するのか。卦に例えれば山水蒙か水山塞か 2021/10/06
メタボン
42
☆☆☆ 虚構だとわかっているがゆえに、この破天荒な物語に意味を求めてはいけないのかもしれない。蛹から蝶になり(しかも衣装によって蝶を表すというハリボテのもの)、監督官に殴られながら金属の蝶を作る。当然その蝶は生きるも死ぬもないのに、生きているか死んでいるかその数を数える。全てが天野の頭の中の出来事か?「壺中に天あり獣あり」と「鳥打ちも夜更けには」にも重なる世界観だった。2021/12/08