出版社内容情報
疫病の猛威に襲われる平安の都で、生まれ変わろうとする悪党が過去の所業に責め苛まれる。京都市ほか主催、第一回京都文学賞受賞作!
内容説明
疫病が猛威をふるい、死臭でむせかえる平安朝の洛中―一生消えぬ傷を負い、人と世を呪詛しながらしかし、イチは変わりかけていた。空也上人、命拾い、救った命、身寄りをなくした身重のおなご…。NHKドラマ『雲霧仁左衛門』ほか執筆。着実にキャリアを重ねた脚本家が満を持して挑み、心血を注いだ長篇小説。京都文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ポチ
46
昔の罪に悩み苦しむ姿が切なく哀しい。生きるって何だろう、問いかけられているような読後感。2021/01/07
hiace9000
37
平安とは名ばかりの、疫病の猛威に襲われる末法悪世の都。人と世を呪詛し、三悪道を地で生き抜いてきたイチ。NHK「雲霧仁左衛門」は大ファン。人の引き合わせ方の妙を知り尽くした作者ならではの、空也上人、キクはじめ脇を固める登場人物の造形は見事。生まれ変わろうとする男が、人を想い初めて知る、生きる辛さと背負う苦しみ。イチが過去の悪行に苛まれ悩み苦しむ様は、死臭で噎せ返る羅城門に象徴される平安京の濁悪感に重なり映る。中高生の頃、教科書で読んだ気になっていた芥川『羅生門』。今どれくらい読めるようになっているだろうか。2021/02/13
信兵衛
24
悪党であったイチの再生ストーリィ。 空也上人の教えは、どの宗教も目指す究極の境地の筈ですが、それを実行することは難しい。2020/12/29
spatz
14
たしかに羅生門を思わせる、殺伐とした、すさんだ、血なまぐさい雰囲気で始まるものがたりだが、一気に読ませる筆の力がある。疫病が蔓延し、むくろをせおって焼いて弔う場面が続く。人の死が日常に迫ってきている今にどこかかさなる。刺さる言葉がたくさん。読んでよかった。2021/04/20
ふう
9
芥川の下人は生か死かの極限でどう生きるかを迫られる。孤児のイチは悪を是としなければ生きられない極限で、異なる価値観に生きる空也上人と出会い、混乱する。人は皆、内に地獄をもつ。産婆のババアはその象徴。いや、空也も同様。キクの赦しも内に地獄をもつ故か。疱瘡蔓延が今と被るが、縋るべき絶対的存在ーーなむあみだぶつーーはない。ただ、生まれたクウはイチにとっての絶対、と考えれば、よりものの見極めの困難な現代にも通じる話だ。2021/08/15