出版社内容情報
傑作『苦海浄土 わが水俣病』。作者の誕生から文学的彷徨、闘争の日々、創造の源泉と90年の豊饒を描き切る、初の本格的評伝!「戦後文学最大の傑作」(池澤夏樹)と激賞された『苦海浄土』。その作家の全容。『苦海浄土 わが水俣病』の発表以来、文学界でも反対闘争の場においても類なき存在でありつづける詩人にして作家・石牟礼道子。恵み豊かな海に育まれた幼年時代から、文学的彷徨、盟友・渡辺京二との出会い、闘争の日々、知識人と交流のたえない現在まで。知られざる創造の源泉と90年の豊饒を描き切る、初の本格評伝。
米本 浩二[ヨネモト コウジ]
内容説明
石牟礼道子九〇歳、かくも激しい憩い初の本格評伝。
目次
栄町 とんとん村
代用教員
虹のくに
サークル村
奇病
森の家
水俣病闘争
行き交う魂
流々草花
食べごしらえ
手漕ぎの舟
魂入れ
不知火
道子さんの食卓
著者等紹介
米本浩二[ヨネモトコウジ]
1961年、徳島県生まれ。徳島県庁正職員を経て早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。在学中に『早稲田文学』を編集。現在、毎日新聞記者。石牟礼道子資料保存会研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
74
石牟礼道子が亡くなる1年前に出版された評伝。著者の米本氏は石牟礼の伴走者である渡辺京二から「石牟礼道子に密着して話を聞く。伝記に尽きるわけだよ。彼女の言葉と、著者の引用、関係者の証言、この際、戸籍調べもして、ノートも未発表原稿も、ほかのなにもかも全部ぶちこんで、伝記を書く。そういう仕事をするには、己を虚しくしないといけませんからね」とにすすめられて書いたという。この境地に立つには、石牟礼はあまりにも大きな存在だ。そう、よく書いたなというのが率直な感想である。石牟礼の自伝『葭の渚』を一緒に読むと、さらに理解2018/03/23
ネギっ子gen
47
【日に日に 昏(く)るるし 雪ゃあ雪 降ってくるし ほんにほんに まあ どこどこ 漂浪(され)きよりますとじゃろ 「糸繰りうた」】その誕生から文学的彷徨、闘争の日々など、90年の豊饒な人生を描き切った評伝。巻末に、書誌・主要参考文献、年譜、人名・団体名索引。<石牟礼道子は渚に立つ人である。前近代と近代、この世とあの世、自然と反自然、といった具合に、あらゆる相反するもののはざまに佇んでいる。/「たまたま」の結果、半分無意識に渚にいるのである。しかし、生まれ持った才能は常人には分からぬ苦しみをもたらす>と。⇒2024/05/09
ぐうぐう
33
石牟礼道子の評伝を書く。それがいかに大それた行為であるか、著者の米本浩二は知っている。どっしりとした重厚感のある評伝を期待すると、肩透かしを食らう。分量も、本来ならこの三倍は優に必要なはずだ。それほど大きな存在なのだ、石牟礼道子は。むろん、そのことにも米本は自覚的である。では、この評伝は失望を招いているだろうか。否、そうではない。読んでいると、石牟礼道子の息遣いが感じられる。それは米本が「魂のことを書く」という姿勢で評伝に挑んでいるからだ。それには、何よりも道子の言葉が必要である。(つづく)2017/05/21
algon
18
なんとか評伝を読むことが出来るまでのレベルにきたので楽しみにしていた。新聞記者の労作で石牟礼の伴走者とも言える渡辺京二の協力もあり、また池澤の言葉を借りるなら「篤実な評伝」となった。しかし後書きにもあるが「書いても書いても石牟礼道子という表現者のわからなさは募る一方である。」…やっぱりそうなんだ…と。そんな中での渡辺談、「フォークナーは意識的に企んだ前衛作家なのだが石牟礼道子は天然の前衛なのだ。」な~るほど納得!「水俣病にとらわれすぎると石牟礼道子を見誤る」この言葉も深く得心がいった。石牟礼学は続く(笑)2022/03/19
チェアー
17
この世のものでない存在がこの世に降り立って、世界を描く。それが石牟礼道子だということを知った。これまでどうしてちゃんと読んでこなかったのか、気づかなかったのかと思って絶句。かろうじて「苦海浄土」だけは読んでいたが、ノンフィクションと思い込み、まったく方向違いの読み方をしていたんだなあ。筆者が戸惑いながら、おろおろしながら道子さんに近づいていく姿が、読者が石牟礼作品に近づいていく姿を思わせて共感できる。どうして石牟礼さんにノーベル文学賞を与えなかったのか。本人は断ったかもしれないけど。2018/03/19