出版社内容情報
一発逆転を狙い闇バイトに走る男を襲うワナとは。日常の不穏さを描く作品集。空き巣に入った家で目を覚ました男。仲間は金と共に姿を消し、住人には顔を見られてしまった! いまや足枷となったその家で男は、不遇な過去を振り払うために包丁を握り――さえない男の煩悶をリアルに描く表題作の他、訳も分からず妻に去られた夫や、海に消えた父を待つ娘など、様々な「隣の人生」を鋭く浮き彫りにする。
内容説明
「おまえはいったい、おまえの人生をどうしたいんだ」易きに流れて人生に行き詰まり、闇バイトに手を染めた若者。押し入った不動産業者の家で老婆を縛り上げ、まんまと金を奪ったのだが―目が覚めると彼を誘った男は金と共に姿を消していた。しかも覆面は外され、老婆に目撃される。俺だけ損するだろこの展開!不遇な過去を振り切るように、若者は包丁を手に老婆に近づく―表題作の他、訳も分からず妻に去られた夫や、海に消えた父を待つ娘など、様々な「隣の人生」を収める作品集。
著者等紹介
高橋弘希[タカハシヒロキ]
青森県十和田市生まれ。2014年、「指の骨」で第46回新潮新人賞を受賞。2017年、『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』で第39回野間文芸新人賞を受賞。2018年「送り火」で第159回芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
112
「指の骨」以来追いかけている高橋弘希さんの新刊。表題作「叩く」では闇バイトでついに強盗をするまでになった若者。老婆に面を知られ…結局どうなったのかはわからない。だが2階の籠の鳥を殺し階段を降りていく様子がそこはかとなく怖い。「埋立地」の冒険感「海がふくれて」の幼馴染みの恋人の高校生、淡々としている中に懐かしさを覚える。やっぱりこれからも追いかけよう。2023/09/10
ケンイチミズバ
93
闇の階段を上ったり下りたり。例えば闇金の取り立てが怖くて一時しのぎに弱者から金を奪うとか、鳩や猫なら殺せるとか、ダークヒーローを真似て事件を起こし、社会が悪いのだとか理屈にならない理屈がうすら寒い。強盗に押し入ったら当初情報を遥かに超える現金が金庫にあった。手配役に殴られ気絶し目覚めるとマスクを剥がされた状態で面が割れてしまう。無抵抗の老人を殺す、このまま逃げる、不道徳な選択肢しかなく、闇バイトに手を出すようなバカで短絡的な頭を精一杯振り絞って考えめぐらす。人間のドス黒い一面を叩きつけて来る冒頭で驚いた。2023/08/07
ででんでん
64
高橋さんの文章は美しくてとても好きだ。ただ、美しい言葉たちで紡がれる彼の物語世界の凄惨さや酷薄さが、やはり少し苦手だ。それでもこの作品集には、「海がふくらむ」のように、自然の猛威はあっても、登場する人たちに心を寄せていけるような、とても好きだなと思える短編があり、勝手に救われたような気持ちになって読み終えた。2023/08/09
クリママ
56
表題作含む5編の短編。「叩く」タタキに入った家で、仲間に裏切られる。隠された不穏ではなく、全開の不穏。あまりに直截で、やめろと願いながら読むものの、読後感は最悪。高橋作品らしいといえばらしい。続く3編は、不穏さ薄め。「海がふくれて」海辺の町での一夏が女子高生目線で描かれる。澄んだ描写が初々しく新鮮だが、読後、この先彼女が経験することになるだろう愛憎を想像してしまい複雑。また、お父さんが助けてくれたのにと、文中の彼女と見解の相違もあった。だが、このような作風が次の作品に繋がるのもいいのではないかとも思った。2023/07/21
日の丸タック
43
日常の中に様々な不安が存在する。 少しだけ非日常によったり、全く自分では想像できない展開に巻き込まれたり…進んだ物語は収まるところもなく途切れる。 読みやすい文体にサラサラと読み進められるが、行き着くところがわからない? また芥川賞作家の純文学のマジックに絡め取られた…2023/11/20