出版社内容情報
妻は少し考えた後に、鉛筆を走らせる。――紙に書いたことも、屹度、言葉でせう。その日に死んでしまふ気がするのです――。昭和十六年、青森。凜太はTBを患い隔離病棟で療養する妻を足繁く見舞っている。しかし病状は悪化、ついには喉の安静のため、若い夫婦は会話を禁じられてしまう。静かに蝕まれる命と濃密で静謐な時。『指の骨』で新潮新人賞を受賞した大注目作家のデビュー第二作。芥川賞候補作。
内容説明
その日に死んでしまふ気がするのです―。凛太はTBを患い療養する幼馴染みの妻・早季を足繁く見舞っている。身体も、精神も、安静に保つ日々。しかし病状は悪化、咽喉の安静のため若い夫婦はついに会話を禁じられてしまう。そして或る日、彼が妻の瞳の底に見たのは、おそらく、人間が生きたまま宿してはいけない種類のものだった―。戦争を知らない世代が書いたと話題の『指の骨』で新潮新人賞を受賞し、各賞の候補に挙げられた大注目作家が描く、清らかで静謐な恋愛小説。
著者等紹介
高橋弘希[タカハシヒロキ]
1979年12月8日青森県十和田市生まれ。2014年、「指の骨」で第46回新潮新人賞受賞。2015年、同作が第152回芥川賞候補、第28回三島賞候補となった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
113
乾燥した冷たさを感じる高橋弘希さんの二作目。わざわざ買ったのは装丁の花風車がとても綺麗だったから。「指の骨」と同様に抑揚はなく、読者の感情を揺さぶろうとするでもなく、淡々と死を(死が映す生を)語る。静かに死に蝕まれていく妻とそれを見守る主人公を囲むのは、それ以上に静謐な世界や自然の描写。開戦前夜の揺れ動く時代でも、世界は何一つ変わらずそこに在って、人間もその中で生きて死ぬだけ(伝えたいのはそういう「メッセージ」ではない気もするけど)。ラストの赤と青の「朝顔」の美しさは、イメージとして心に深く刻み込まれた。2015/10/05
優希
87
命が蝕まれて行く瞬間を静かに、そして濃密に描いていると思いました。淡々と死と、死が映す生を描いているのが胸に刺さります。病のため隔離病棟で療養する妻と、それを見守る凛太。戦争という時代が世界を襲っても、妻と凛太を囲む時間と情景は静謐で変わらずそこにありました。どんなときでも世界は常にそこに存在し、人はその中で死を迎える、そんなメッセージが込められている作品だと思いました。最後の朝顔が美しく、鮮やかな印象を残します。2015/10/10
いつでも母さん
83
だから、芥川賞絡みの作品は苦手だと言ってるだろう?と自分にツッコミを入れる。装丁が誘ったんだなぁ(汗)時は、大日本帝国。TBを患う妻と見舞う夫の話。次々と治療が妻の自由を奪う(いや、病なのだが・・)それでも妻のその残された尊厳に儚くて気高さを感じてしまう。その時、夫はどうあるべきかを私に突きつけた作品だった。妻が紙に書く言葉の数々が自然で愛おしい。私なら書けるか?ん~ん、やはり『芥川賞』は嫌いだ!2015/10/03
ぶんこ
62
著者初読みです。 静謐という言葉がぴったりの文章なのですが、全編結核サナトリウムでの話だけに辛すぎました。 私自身が呼吸器に持病があるので想像たくましくなってしまい、息苦しかったです。 戦時の為結婚を早めた新妻でしたが、結核発症し入院。 凛太は虫垂炎で召集先から帰宅。 毎日のように妻を見舞う。 こんなに夫に来てもらえて妻の早季さんは幸せだ。 健康な人が読むと、唯々美しいのでしょうが、私には辛い本でした。2015/11/06
なゆ
61
『指の骨』と同じく戦時中の話だが、これは戦地の話ではなかった。結核療養中の妻をたびたび見舞う夫の話。療養中の静かでゆっくりな動きにあわせるように、話もそんなふうに進む。穏やかな時間だけど妻の病状は一進一退で、死と隣り合わせの空間でもある。戦地の五味くんからの手紙だけが、戦争を思い出させる。2人が過ごす静かな時間の細やかな表現が、ブンガク的で美しい。少し哀しいけれど甘やかな余韻の作品。2015/08/21