内容説明
前世に太陽と同じ温度で焼け死んだと話す少女が同級生だった「僕」は、この惑星で平凡な医師として生きていたが、いきなり「等国」なる組織に拉致された。彼らによれば、対立する「錐国」との間で世界の趨勢を巡り争っており、その中心には長年寝たきりとなっている祖父がいるという。その祖父が突然快復し失踪、どうやら私の恋人を見つけたらしい。一方、はるか未来に目を覚ました自称天才の男は迎えに来た渋い声の異郷の友人と共に、“予定された未来”の最後の可能性にかけるため南へ向かい、途中、神をも畏れぬ塔を作り重力に抗おうとしたニムロッドの調べが鳴り響く。時空を超えた二つの世界が交差するとき、すべては完成する…?
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
157
上田 岳弘、芥川賞受賞作「ニムロッド」に続いて3作目です。「キュー」というイメージの軽薄な作品ではなく、憲法九条五輪世界最終戦争ファンタジー、著者の過去の作品名が多数登場する総括的な作品でした。著者は芥川賞を受賞していますが、島田 雅彦的な進化を今後して行くかもしれません。著者は、サヨク、ウヨクのどちらでしょうか?2019/06/13
ケンイチミズバ
127
地上90メートルで炸裂すると最大の効果、マックスファクターが得られる。少女は青空に向かって手を差し伸べたまま蒸発し最後に見たものは太陽が二つ。1945年8月6日広島。座標を計算した学者は数学的好奇心から、射爆手はスイッチを押しただけ。第二次大戦が体の中に入っているという、広島の少女の生まれ変わり、女子高生の恭子は近現代史を読み過ぎて頭がおかしくなったか膨大な読書による狂言か、本物の輪廻転生かもしれない。私たちは常に軟禁状態にある。知らず会社から学校から国から比較的自由の利く軟禁状態。思うことだけは自由。2019/06/17
キク
61
石原莞爾と参謀が語り合った「世界は錐国と平国という陣営に分かれ、世界最終戦争が始まる」という予想。その議論の中では、歴史は「言語の発生」「世界大戦」「原子力の解放」「個の廃止」「言語の廃止」「根源の目の獲得」「時の金具の解除」など15のポイントを必ず通過する。遠い未来で最後の人類となり、肉の海として世界と一体化した参謀は、現代では寝たきりの老人となっている。突然目覚めて病院から出て行った祖父を、その孫が追いかけることから物語が動き出す。壮大なSF仕立ての硬質な純文学。これは、上田岳弘じゃなきゃ書けない。2023/07/29
アマニョッキ
55
AIによって人間の思考が置換されていく。肉体という個を失った人間の行く末は。これは未来なのか過去なのかもしくは浮遊する妄想なのか。上田岳弘さんの普遍のテーマとも言える要素がいくつも散りばめられている、ファンにはたまらない作品。椚節子がヒロシマの空に望んだもの、また繰り返されると予感している空への渇望。カクテルのギムレットのように、もう何色だったかも、原料が何だったかもわからなくならないように、Rejected peopleであるわたしは哀しいラストに涙をながす。2020/07/22
ミライ
43
「ニムロッド」で芥川賞受賞後の、上田岳弘さん初著書。400ページ超の長編小説であり、冒頭で横文字ならぬアルファベット縦文字や、よくわからないキーワードが立て続けに出てくるなど、かなりに難解な小説だったが非常に面白かった。前世に太陽と同じ温度で焼け死んだと話す少女が同級生だった「僕」は、ある組織に拉致され、そして寝たきりの祖父は失踪、未来人の自称天才も交え、ごった煮状態で物語は進行する。読んだ後、単行本帯の、俳優・高橋一生さんのコメント「狭義では戦争、広義では愛」がまあまあしっくりきた。2019/06/04