内容説明
寛政期から文化文政期に至るダイナミックな時空に湧立つ「蝦夷大王」の大いなる幻影…。移封される藩の運命を担いつつ、詩画の世界にこころあそばせた、家老・波響の豊かなる人間像―。気品と官能性にみちた芸術世界。小説家の予見と想像力によって初めて照射された一貴人の真価。
目次
第1章 家系
第2章 幼少時代
第3章 アイヌと松前家
第4章 「夷酋列像」
第5章 上洛
第6章 京洛の交遊
第7章 南蘋派再び
第8章 続、京洛の交遊
第9章 北辺事情
第10章 道広と呑響
第11章 家老東奔西走
第12章 文化4年
第13章 詩業一覧
第14章 画業一覧
第15章 江戸の交遊
第16章 梁川時代
第17章 復領と晩年
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
87
かなり昔から本棚の肥やしになっていた本を取り出して読んでみました。中村真一郎のこの本と「木村兼葭堂」「頼山陽とその時代」はやっと読めるようなゆとりが出てきました。江戸の松前藩家老で画家で漢詩もよくしたこの人物についての生涯や交友関係をじっくりと読ませてくれます。「松前応挙」といわれるくらいの画才を持っていた様子が最初にあるカラフルな作品でよくわかります。とくにアイヌの酋長の絵は確かに印象に残ります。楽しめました。2024/04/10
恋愛爆弾
14
花山院忠長の蝦夷地配流の場面はちょっと面白かった。できれば中公新書とかで松前道広の生涯(というか陰謀)に的を絞った評伝を読みたい。2023/07/09
イリエ
7
日曜美術館で「夷酋列像図」をみて、その細かな表現力に興味をもち、図書館で借りました。この本自体は、圧倒的な筆力を持った作家が、精緻に調査した人物周辺の記録です。波響とは政治家なのか、画家なのか。なぜあんな絵が描けたのか、などなど分厚い本ですが、スリリングに愉しめます。また、無禄な大名ゆえに不安定な地位にあった松前家が現代的でもあり、面白かったです。2016/02/03
きさらぎ
3
松前藩九代藩主道廣の実弟で、一歳で家老の家柄、蛎崎家の養子となる。長じて家老職を継ぎ藩政に携わる傍ら、画技を幼少時に江戸で南蘋派に、後に入洛して円山応挙に学び、詩業を中国性霊派の流れを受けた菅茶山、六如などに学んだ。田沼意次時代の江戸で伸び伸びと何不自由ない少年期を過ごし、その後も幅広い交友を通して美と官能を存分に享受した波響は、44歳の時に松前藩直轄化による奥州梁川への移封という事態に直面し、筆頭家老として藩政を担う事になる。復領がなるのは58歳である。彼の絵もまた、藩の運営費を稼ぎ出す一手段となる。2015/06/20