内容説明
13歳で明治維新を、16歳で廃藩置県を、20代で西南戦争を体験し、巡査となった津田三蔵。病いがちの母を案じ、困った兄に悩まされ、妹には櫛や半襟を見立ててやる。不器用で几帳面、ごくまっとうなこの男が、なぜロシア皇太子を襲ったのか。近代化から逸れ、否応なく追いつめられていった一人の男の悲劇を、愛惜をこめて描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
James Hayashi
28
1891年、ロシア皇太子ニコライが日本訪問中に警官に斬りつけられた大津事件。津田三蔵の家庭環境や原因を探る。記録文学だが、後半は著者の遭われたストーカー的な様子も記述され犯人と津田の姿を重ね合わそうとの努力とも取れるが、個人的には不必要に感じる。残記録から動機は不明。司馬先生は「坂の上の雲」で攘夷主義の思想的狂人と決めつけているが、皇太子の態度に逆上したとの調書もある。真相は藪の中だが、日本中がひっくり返るような騒ぎになった様子は感じ取れた。ニコライはその後皇帝となり日露戦争を経てロシア革命にて命を終える2017/05/18
あ げ こ
7
手紙、日記、記録…残された言葉を並べ、知り得ない時間の、知り得ない思いに、ただ、寄り添う。塗り直すことも出来ぬほど、薄れ、今はもう、何色かさえ、わからなくなってしまった、言葉たち。解き明かす訳でもなく、ひどく退屈で、居心地が悪い。だが、そこに、知り得る近しさ、見過ごせぬ不可思議さが紛れ込んだ途端、それらは、誰かの好奇心、興味を満たすための、その試みの過程とも言うべき、退屈な、言葉の羅列ではなく、素通り出来ぬ、不穏な力を持った、思いの群れへと、姿を変えていく。繋がらないそれぞれ、混ざり、消えぬ強さを示す。2014/12/28
おおきなかぶ
3
明治時代に起こった、ロシア皇太子を日本人警察官がサーベルで襲った大津事件を題材にした不思議な作品。結局、襲った理由は何だったんでしょうか?2017/02/25
takao
2
大津事件の犯人2023/11/29
まどの一哉
1
話は京阪電鉄浜大津駅となりの三井寺から始まる。琵琶湖疏水沿いのなだらかな坂道を登って三井寺へたどりつき、その境内から大津市街と琵琶湖を眺める絶景は実は、私も経験したことがあり大変良かった思い出がある。津田三蔵はここで警備にあたっていた。2022/11/17