内容説明
暴流。自分も刻々、瞬きする間もなく過ぎる時間とともに、命の暴流の中にいる。ここでなにをしているのか。若く、異様な激しさを潜めた娘に執着し、しかも相手に大した支援も保障もせず、こっそり家庭を保っている。その渇愛と欺瞞の底に、沈んでいる。小説家の中には破天荒に生きた祖父の血が流れていた。著者渾身の長編小説。
著者等紹介
田久保英夫[タクボヒデオ]
1928年東京生れ。慶応義塾大学文学部卒。69年「深い河」で芥川賞受賞。76年『髪の環』で毎日出版文化賞、78年『触媒』で芸術選奨文部大臣賞、85年「辻火」で川端康成文学賞、同年『海図』で読売文学賞、97年『木霊集』で野間文芸賞を受賞。2001年4月、逝去
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感想・レビュー
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風に吹かれて
11
仮に姿を装う。人は仮装して日々を送るのが常なのだろうし、仮装を解けば日々の生活に軋轢が生じるものなのかも知れない。自分の年齢の半分にも満たない、そして生(き)の心をぶつけてくる女性と出会った主人公の日々と、その女性の弟の独白が交互に出てくる。女性との関わりが妻にバレた後も、年齢を重ねた分か、どこか余裕があるように見受けられるし、妻や娘たちとの関係も意外と平穏なのだけれど、最後に主人公を襲う女性の暴流。主人公は最後まで仮装のままだったように思える。まとってきた仮装は、歳月を重ねると、脱ぐこともできない。2018/03/16