出版社内容情報
心と躰の深奥に潜む“生”への飽くなき欲望――。河野ワールド全開!
毒か薬か、震える手で母は……自分の臍の緒が短くなっていることを知った女が推理を始める表題作。日中戦争が始まったころの尋常小学校の日常をリアルに描く「月光の曲」。占星術師に亡くなった夫を観てもらう女(「星辰」)、生まれ得たかも知れぬ子どもの像を密かに創る女(「魔」)。甘美な戦慄にいざなう純文学の醍醐味!
内容説明
日中戦争が始まったころの尋常小学校の日常(『月光の曲』)。夫を亡くした女は、占星術師に何を観てもらうのか(『星辰』)。自ら創れば創り得る。と夫の留守が刺戟する(『魔』)。自分の臍の緒の包みは明けられていた。なぜ?いつ?(『臍の緒は妙薬』)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
neimu
21
この題名の話だけが印象に残ったけれど、他の話は今一つよくわからなかった。私はこの手の話を鑑賞するだけの読書力や感性を失ってしまったのかもしれない。戦前の学校、占い、ある夫人の秘密、特効薬としての臍の緒、いずれも淡い色彩、独特の香りを帯びた何とも名状し難い雰囲気を漂わせている。強いインパクトを与えるわけではないが、ボディブローのようにじわじわ後から効いてくる、そんな感じの話ばかりなのだが、いかんせん、今の私には読みづらい、わかりづらいが第一印象で、困ってしまった。入り込んだら抜け出しにくいからだろうか。2017/06/08
なぎ
5
数々の賞を受賞した著者の生への執着を感じさせる作品集。純文学ということで、おおきな出来事は無いものの、その粛々と淡々とした書きぶりが、嫌な雰囲気を際立たせているように感じます。私の臍の緒は小学生の頃見た時のように、そのままの形で桐箱に納められているのでしょうか。なんとも言えない読後感。他の作品も気になります。2016/11/02
加藤
4
"彼女は赤ん坊の自分にそれを服ませてくれた時の母の気持を想像する。ひとりで思い惑うた揚句、一か八かの気持で服ませたにちがいない。助かるかもしれない。が、怖ろしいことになるかもしれない。震える手で、妙薬を服ませる母は、同時に毒でも服ませる気持であったことだろう。怖ろしい慈母である。"ほとんど簡素といってしまいそうになるくらいに削ぎ落とされた文体、そっと差し込まれるようなラスト数行。安易に恐ろしさや彼岸の誘いなどと言葉を添えてしまいたくない静謐は、"過保護的な協調原理"もあいまってすさまじいパースペクティブを2020/02/21
takao
2
ふむ2024/01/31
lisa
2
現実のなかに湧く執着。なにも怖い出来事が起こるわけではないのに、怖い。女がひとり、夫との子供をコーンスターチで創り、妙薬と信じる臍の緒を病人に飲ませたいと願い、機会をねらう。想像しただけでその執着心にぞくぞくする。「で?」といってしまえばそれまでだらけの作品集なのだけど、『魔』のラスト、M子の台詞にやられた。このための1900円か、とおもうほど飛び抜けてすきな作品。2010/03/08