出版社内容情報
夜匂う花、口中でほどける味、ふるい傷の痛み。伊丹十三、沢村貞子ほか愛読書のページ。記憶の底から湧きあがる追慕を綴る67篇。
あれは誰だったのか――、泣きたいほどのなつかしさ。仕事で訪れた外国の街のその男は、初めて会ったのになつかしいひとだった……。夜匂う花、口中でほどける味、ふるい傷の痛みが、記憶をたぐりよせる。伊丹十三、沢村貞子、有吉佐和子、殿山泰司など愛読書の頁を繰れば、声の聞こえる思いがする。誰もが胸に抱くかけがえのない瞬間をすくいあげた、こころにのこるエッセイ67篇。
内容説明
初めて出会ったなつかしいひと。わかれた男の恋しい傷痕。夜匂う花、口中にただよう味。日常をゆるがせる不在感を鮮烈に描くエッセイ67篇。
目次
なつかしいひと(あの冬の匂い;縁側の神さま;霜柱を踏む ほか)
季節のあわい(宙ぶらりん;背後の気配;滑る ほか)
なじむということ(なじむということ;彼女の便り;夏の日の悦ちゃん ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nico🐬波待ち中
84
つくづく平松さんのエッセイは大人の女性の文章で、一歩引いた目線で静かに物事を捉えておられるな、と感心する。今回も気になる文章が色々あってメモしたくなった。平松さんの作られる料理も気になるものばかり。特に真夏の暑い日に平松さんが作られた、刻んだトマトの入った冷たい茶碗むし!私もつるんと食べてみたい。私の地元を「雲の美しい土地」と書いておられて、なんだか嬉しい。風と共に何処からか雲が低く湧き広がっていく…その穏やかな情景が目に浮かぶ。平松さんのように空を見上げて雲の在りかや風のみちすじをなぞってみたい。2017/09/17
Y
21
筆者はいろんな表現を持っている人だと思った。私にとっては食は生きるモチベーションと言ってもいいくらいなのだけど、筆者ほど食という途方もなくだだっ広いジャンルを様々な着眼点で語ることができるのがすごいと思った。「ひとくちめで「おいしいぞ」と挑んでくる味はけっきょく飽きが来る」という一行に深く共感した。紙芝居のおじさんって公園にいたなというのを思い出した。お菓子だけもらって紙芝居を聞かない子供たちに怒っていたな。2018/09/16
ドナルド@灯れ松明の火
17
連続で平松さんエッセイ。平松さんの幼いころからの過去の記憶を中心に追憶系のエッセイだった。いつもの軽妙な文体は抑えられしんみりとしたエッセイが多い。凄く多感で気配りができる人なんだなぁと思った。2017/08/20
ぐるぐる244
8
【図書館】何度目かの再読。平松さんというと料理関係のエッセイ、と思いがちだったけど、この本ではタイトル通り記憶にまつわるものが多くて(不穏な「競馬新聞のなかみ」これはすごいショートショートだと思う。フィクションだと思ってるけど実体験があるのかも)、時々「おうちへ帰ろう」の真鍮ねじ鍵のくだりが読みたくなる。ねじ式の鍵ってもうみかけなくなった。2枚のガラスの引き戸がしなって戸が閉まる、あの触感をなつかしく思い出す。2019/11/30
え
6
今回も丁寧に平松さんの記憶を追体験させていただきました。「ほとびる」という最近あまり使われなくなった言葉…覚えました。これ、北海道弁で「うるかす」って言うんですよ。うるかしておいて、って…「ほとびる」が標準語なんですね。うるかす、は日常に馴染んで現役の言葉です。図書館の返却が迫り駆け足の読書になりました。なつかしい気持ちになりたくなったら再読しよう。2013/05/02