内容説明
「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」「春と修羅」…宮沢賢治の諸作品を「堂々と逸脱し、ゆえに真摯に演奏する」挑戦を続けてきた小説家の前に立ちはだかったのは、災害の犠牲となり人々を救ったあの美談。何が彼をしてここまで抵抗せしめたのか。2011年3月を経験した私たちの前に新しい賢治が現れる。賢治と並走してきた小説家が挑む、作品宇宙を探査する「ほんたう」への旅。(宮沢賢治生誕123年記念出版)。
著者等紹介
古川日出男[フルカワヒデオ]
1966年、福島県生まれ。98年『13』でデビュー。『アラビアの夜の種族』(2001)で日本推理作家協会賞および日本SF大賞、『LOVE』(2005)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(2015)で野間文芸新人賞および読売文学賞を受賞。『平家物語』の現代語訳も手がけ、戯曲『冬眠する熊に添い寝してごらん』ならびに「ローマ帝国の三島由紀夫」は岸田賞の候補となった。作品はアメリカ、フランス、イギリス等、海外での評価も高い(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さっとる◎
43
輪廻があるとして、転生があるとして、生まれ変わった同じらしきあなたをそれぞれ別のあなたとして愛するという姿勢はいただけないかしら。そういうものになりたいと願ったあなたの不完全さを私は愛しく思ったし、そういうものになったあなたの真っ直ぐ突き進む姿に私は惹かれただろう。好きになったあなたが変奏するのなら、私はその音に耳を澄ましたい。それがまたいつか誰かの手によってリミックスされてドロップされるなら、それもまた楽し。天災と人災、人の世界とばけものの世界。大きな太陽小さな惑星。今日も地球は太陽の周りを廻っている。2019/09/06
ポップ
34
わたしたちは本を読むことで作者と対話している。本書は著者が宮沢賢治の童話と詩と向き合いリサイタル&リミックスした作品である。ある時は語り手、ある時は読み手として、物語と心象スケッチを紐解いていく。惑星軌道に寄り添いながら。グスコーブドリの伝記の再話は冷徹な目で読ませる。『雨ニモマケズ』の「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」から作者の自伝ではない伝記の形にしたとみて、ブドリ=菩薩の説は、有力な見地に思う。あなたの知らないところで殉難は行われている。名を知らない人のために祈りを捧げたい。【イーハトーブ祭】2019/09/21
けんさん
21
『宮沢賢治へのオマージュ?作者の自伝?』 前半は、宮沢賢治作品のスピンオフといった感じで始まる。 徐々に、作者の東日本大震災での体験とオーバーラップしていき、哲学的な話になっていく。ん〜、ちょっと難しかった。2021/11/10
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21
立ち位置が違うよ。知ってる。だからこれはリミックス。決して完成されないリミックス。否、もはやこれは転生。菩薩に、サウイフモノニ、ワタシハナリタイ。のにナレナイあなた。あなたと同行していると思ったのに森が、森が、消滅した森が読者を誘う。賢治と日出男と私が森の跡地で語り、奏でる。リサイタルからライブへ。これもまた無限にある伝記のひとつ。2020/09/26
フム
21
なんというか、こんなに痛みを感じる読書になるとは思いもしないで読みはじめ、読んでいた。それが後半の「グスコーブドリの伝記 魔の一千枚」で一転した。2011年夏、筆者が朗読会で賢治を読んでから、動き出した“リサイタル”は賢治の原作をそのまま再現したものから「堂々と逸脱」していく、その中に東日本大震災と原発事故を経験した古川さん自身の問いかけがあふれた。これはブドリなのか、賢治なのか、古川さんなのか、いや私自身にも問いかけられているのか、内側と外側にぐちゃぐちゃになりながら、私も痛みを感じていた。2019/10/21