臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ

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  • サイズ B6判/ページ数 218p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784103036197
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0093

内容説明

かつてチャイルド・ポルノグラフィ疑惑を招いて消えていった一本の映画企画があった。その仲間と美しき国際派女優が30年を経て再び、私の前に現れた。人生の最後に賭ける「おかしな老人」たちの新たなもくろみとは?ポオの美しい詩篇、枕草子、農民蜂起の伝承が破天荒なドラマを彩る、大江健三郎「後期の仕事」の白眉。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

271
タイトルは、日夏耿之介訳のポーの詩から。大江にとっての30年の時間が巻き戻され、そしてそのことによってまた新たな時を刻んでいくといった螺旋構造の小説。この作品に特徴的なのは、往年の大女優サクラさんと、「私」の同窓生だった木守の存在だ。造形の核となるような、何らかのモデルは存在するのだろうが、私には定かではない。小説作法の上からは「マルカム・ラウリーの手法」―すなわち、既存のテキスト(この場合は大江にとっての戦後、占領、在の歴史等)をシナリオに書き直すことで、30年の意味を改めて問い直すことにあるのだろう。2015/10/01

がらくたどん

70
先日「男が女を犯せぬ国がある」というハードな言葉で始まる物語を読んだ。支配と被支配の共犯関係を「忘れられた物語」を「忘れられずに生き残る物語」へと繋げることで見つめ直す物語。読んでいて思い出したのが本書。とある老作家が戦災孤児として進駐軍兵士に保護されたのち世界的俳優となった女性の久々の芝居の脚本を頼まれる。女優が老作家の故郷で出会った村芝居が触媒になり、彼女が少女の頃に保護者によって一度だけ撮影された「アナベル・リイ」の詩を題材とした映画の「忘れられた」いたましい記憶が立ち上がる。⇒2023/04/16

Tonex

28
【ナボコフ『ロリータ』関連】老作家と老映画プロデューサーと老女優が農民一揆の映画を作ろうと奔走する話。大江健三郎の小説は難解な印象があってほとんど読んだことがなかったが面白かった。(正確には最初ざっと読んだらつまらなかったが、じっくり再読したら面白くなった。)▼虚実入り乱れたメタ小説であり、過去の自作を頻繁に参照する。大江作品になじんでないので、よくわからない部分が多かった。▼ポーの詩「アナベル・リイ」を下敷きにしているが、さらに「アナベル・リイ」を下敷きとしたナボコフの『ロリータ』をも下敷きにしている。2016/02/21

かふ

24
白い紫陽花を「アナベル」ということから、次の大江健三郎はこれを読んでみようということになった。そこからポーの詩に「アナベル・リイ」に出会い、この題名にもなった日夏耿之介の翻訳は見つからなかったけど、大江健三郎の著作から詩を理解するというのは『燃え上がる緑の木』のイエイツと一緒で詩の空気を物語の中で感じられるのが面白い。日夏耿之介の翻訳詩はポーの原詩とは違うようなのだが、演奏家の解釈みたいなものかな。その土地の花で詩の花は咲く。このアナベルは「ノリウツギ」ではないかと、日本に古来から咲く清楚な白い花だ。2023/06/24

梟をめぐる読書

16
日夏耿之介訳によるポウの詩から採られた、浪漫的なタイトルにまず惹かれる。不遜な期待は、アナベル・リイやロリータといったニンフェット文学史上のアイドルたちを引きつつその美貌が語られる「永遠の処女」サクラの(回想的な)登場によっていよいよ最高潮に達するが、彼女が三十年前にチャイルド・ポルノに出演させられていたこと、またその傷から未だに恢復しきれていないことが明らかにされるにつれ、何やら不穏な空気に。並行して語られる、かつて頓挫した映画企画の再開と大江の家族の現在。中篇だが、他の長編作品に負けず劣らず傑作。2013/01/23

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