内容説明
オウエンは学校新聞編集長として活躍しながら、ぼくの面倒を見続けた。泥沼の様相を呈し始めたヴェトナム戦争行きを熱望し、一方ぼくには大胆な方法で徴兵を免れさせた。予知力を持つオウエンがひどく怯える夢の正体は?すべては神の計画という彼の言葉は真実なのか?そして一切不明だったぼくの父の正体は?謎が一挙に解明される衝撃のラストシーンへと、物語はなだれ込む。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
396
アメリカの知識人たちにとって60年代のヴェトナム戦争は今も大きな傷となって影を落としている。少なくてもジョン・アーヴィングにとって、未だにそれは清算しきれていないもののようだ。しかも、彼は当時のカウンター・カルチャーに対しても懐疑の眼を向けている。あの戦争とはアメリカにとって何だったのか、答えは未だに出ていない。そして、それに対峙するのが絶対的正義たる聖書だったのではないか。「神がオウエンを選んだ」のは、まさにそのことを問い直すためであったのではないだろうか。結末部はまさにそのことを証しするものであった。2021/01/22
まふ
105
年月の経過とともにジョンはオウエンと共に成長する。オウエンはハーヴァード大、エール大の特待入学の途を捨てて、陸軍の兵士になることを条件に陸軍から学費を支援してもらい、格落ちのニューハンプシャー大学に二人で入学する。卒業するとジョンはカナダの女学園に英文学の教師としての赴任し、カナダの市民権を得る。一方、オウエンは少尉に任官しベトナム戦争の死亡兵士の家族への死体引渡任務を遂行する…。最後に思いがけない事実が判明するとともに、オウエンの「予定されていたような」事件によりとんでもない終結を迎える。⇒2025/04/24
扉のこちら側
78
2016年230冊め。【156-2/G1000】オウエンの身体的特徴と独特の声がこんな風に結末に関わってくるなんて。ベトナム戦争、信仰と兵役等、主役二人が少年から青年に成長するにあたっての社会の変動がこの結末にむかって一直線。上巻を振り返ってみても無駄なプロットがなかったことに驚かされる。下巻ではG1000リスト入りしている数多くの文学作品の名前が出てくるのでそちらも楽しめた。2016/03/31
Ryuko
27
下巻に入り、アーヴィングのヴェトナム戦争、アメリカへの批判は厳しくなっていく。小さな体、変な声、シュートの練習。積み重ねられたエピソードの意味が明らかになるラストに泣いた。2018/01/24
田中
27
学生たちが、支持するオウエンのために祈り、なす術なく校長が退席する。沈黙により校長を不信任した。「祈りの力」の一端を僕は知りました。1960年代、彼らはベトナム戦争と向き合わなければいけない。手前勝手な理屈で北爆を開始する政治家たちにオウエンは幻滅の連続。この国の行く末は絶望なのか。自分の宿命を頑なに信じ、親友ジョンを守ったオウエン。シュート練習や奇妙な声も役に立つものだと知っていたのだろう。オウエンは自己の中にある本物で敬虔な信仰に殉じる。人道主義が根底にあった。オウエンの最後に僕は泣いてしまう。2016/03/08