内容説明
みずから望んで、砂漠化の進む中央アフリカの奥地に赴任した医師マロリーは、憑かれたように灌漑計画にとりくんでいた。が、そんな彼を嘲笑うかのように、突如、サハラ砂漠に巨大な川が出現する。マロリー川と名づけられたその大河を殺すべく、彼はあやしげなテレビ・プロデューサーとともに、水源を目指す奇妙な旅に出発した…。『太陽の帝国』のバラードが放つ話題の最新長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
澤水月
32
サハラに突如湧いた大河と発見者なのに水源を断とうとする医師、胡散臭いTV人、著者に珍しく肉感満ちた性妄想…蠱惑的ながら正直ヤラカシ感。人工物(の果ての廃墟など)が織りなす景観をテクノロジカルランドスケープと称した著者が自然の嘘臭いほどの魅惑と疫もたらす災の源の両面性マジックリアリズムで描く箇所は魅力だが女性の描き方がどうもらしくない。太陽の帝国後初の長編、ガジェットは60年代初期短編ものなのだが人物造形が…太陽の帝国同年84年にデュラス愛人が評判呼んでいたが影響気になる。見ちゃいけないもの覗いたわあ2017/05/25
ニミッツクラス
17
88年(昭和63年)の480円の新潮文庫初版。浅倉氏訳。「太陽の帝国」と「殺す」との間の87年の作品。VS物や「沈んだ世界」などの背景描写や内面を覗う諦念溢れるプチ・シュール感を期待すると読み疲れる。「太陽の帝国」の後の作品のせいか、紛争地帯での命の軽さや不条理、ご都合な展開と戦闘や操船などの活劇描写が意外と重くのしかかる。主人公マロリーは「太陽の帝国」の少年ジムの成長した姿だそうだ。地図が無いのでサッパリ判らない部分もある。話を複雑にする人間の生き様なんぞ、大自然の気儘さに翻弄されっぱなし。★★★★☆☆2021/03/17
sakadonohito
14
砂漠化の進む中央アフリカに赴任した医師マロリーはたまたま溢れ出した水を自分が生み出したと思い込みなんやかんやで水源を求めて奥地に向け出発する。独善的な白人がさらに気が触れたらこうなったみたいな物語。最終的にどうなるのだろうと思いながら読んだが最後まで面白く感じられなかった。2022/08/20
スターライト
7
87年に発表された作品だが、訳者の巻末解説にあるように、60年代のバラード作品に回帰したような趣き。僕はとりわけ『結晶世界』を想起した。中央アフリカに突如出現した第三のナイル川を自らの名前をつけてマロリー川と呼び、熱にうかされたようにその水源を探索し、川を”殺す”ことに取り憑かれた医師の物語だが、読後、この物語は果たして現実なのか、マロリーの想像した悪夢なのかわからなくなってくる。登場人物たちも多かれ少なかれ壊れていて(ホメ言葉)、いい感じ。未読のバラード作品はあるが、後期を代表する傑作だと思う。2011/09/05
Mirror
6
コンラッドを思い出させる熱帯の風景。「地球帰還の問題」でもアマゾンを舞台にしていたな。 どこかヘルツォークの「フィッツカラルド」的な取り憑かれた主人公が出てきて、自らの名を冠した川の水源を求めて遡上するという、読者の感情移入を拒否する主人公の動機と行動が読むにつれてなんだか当然のことのようにも思われてきて不思議と楽しくなってきた。2023/03/14