内容説明
許されざる密かな愛に溺れるヴィクトリア朝の詩人たちは、しだいに周囲の人間を不幸に巻き込んでゆく。一方調査を続ける現代の学者たち二人は、1世紀も昔の情熱的なカップルの関係をなぞり、お互いの気持ちを確かめ合う。19世紀と20世紀の男女の複雑な愛の形を描く激しい愛憎のドラマ。2組の四角関係の結末は、秘められた手書きのラブレターの中に…。ブッカー賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
354
この小説は19世紀と現代の恋人たちの物語といった二重構造で構成されているばかりではなく、「訳者あとがき」にまとめられているように物語の全編は数々のメタファーに彩られている。すなわち、作品は多層構造からなり、しかもメインプロット(これ自体が複線的なのだが)からは幾通りもの脇道や、時には踏み迷いかねない細道が張り巡らされているかのごとくである。過去の詩も書簡もすべてこれ作者自身の手になるもののようだが、その緻密さには頭が下がる。しかし、その一方で、ではこの小説に文字通り"possess"されたかというと…。2020/03/14
遥かなる想い
191
後半に入っても 過去を辿る旅は続く。 詩人アッシュとクリスタベルの過去の真実が 往復書簡の形で 徐々に現代に蘇る.. 何かに取り憑かれるように ローランドとモードは真実を追い求めるが .. 饒舌な会話と 膨大な詩・日記が 読者を翻弄させながら.. 最後は 心暖まるエンディングだった。2017/05/27
ケイ
110
下巻は駆け足で読んだ。よくできたミステリだが、恋愛が絡むと、それが壮大な妄想であるようで、入り込めないとなかなかつらいものがある。ブッカー賞作品だが、これはミステリを絡ませたアイデアによるものが大きいのではないか。大家の作品を研究していて行き着いた壮大な物語…、マハさんの作品を思い出した2016/08/14
NAO
59
19世紀の二人の詩人の恋愛と、20世紀の二人の研究者の恋。しかも二組のシチュエーションや、二人が惹かれ合うことで変化していく状況も同じ。全く表には出て来なかった真相が、たった数枚の手紙の下書きから明らかにされていく。その秘密を解き明かしていくときの興奮は、研究している当事者にとってはたまらないものだろう。現代の二人を過去の詩人たちと同じシチュエーションにしたのは、詩人たちが置かれていた状況のややこしさ、難しさを再確認するためか。現代の二人には、明るい未来が待っていそうだ。2021/12/12
たまきら
22
読み終わって、なぜ抱擁というロマンチックなタイトルを訳者が選択したか何となく理解できた。愛というとらえどころのない、けれども存在している何か、一瞬のようで永遠なようなその存在を、多くのアーティストが表現しようと試みてきた。ロダンの接吻や、ミケランジェロのPietàなどにも表現されている世界観を文章で読んだ感じ。でも、作者の意図したメタファーは正直理解できているか自分ではわからなかった。2020/06/05