内容説明
夕闇に「彼女」を襲った男は誰だったのか。時は過ぎ、男はダンケルクへの泥沼の撤退戦を戦っている。見習い看護婦のブライオニーは作家への夢を紡いでいる。恋人たちは引き裂かれ、再会を夢見ている。彼らの運命は?真の犯人は?1999年、すべての謎は明らかになるが―。いつしか怒涛と化した物語は、圧巻の結末へと辿り着く。世界文学の新たな古典となった名作の、茫然の終幕。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
106
三度驚いた。そのうち一度は「!」と声にならない声が出た。物語の本筋は直接的に描写されることはほぼなく、人物の視点からのみ語られる。よって事件の真相について否応なく想像させられ、『贖罪』というタイトルについてもずっと考え続けさせられる。重苦しさに没頭した。ブライオニーの贖罪の方法がこのようなものであるとは想像もしていなかった。核心は明らかになったが、贖罪は決して果たされない苦い結末。圧巻。下巻以降、章の頭の文字のフォントが突然大きくなったことを不思議に思っていたのだけれど、そういうことか。再読したくなる。 2020/02/01
扉のこちら側
87
2016年732冊め。【206-2/G1000】第一部で冤罪事件が起こり、第二部で濡れ衣を着せられた悲劇の恋人たちの物語が語られ、そして第三部で、この物語の存在そのものが彼女の「贖罪」のためであったと明かされる。ネタバレせずに感想を書くのは難しいが、やはり「思い込み」、なのだろう。その点において「贖罪」の物語を彼女が語るというのは果たして是だったのか。しかし、面白い作品だったという思いは揺らがない。英国の様々な文学作品からの引用や、作家への言及がなされているので、いずれそれらを読んだころにまた再読しよう。2016/09/18
のっち♬
74
「三つの意識の流れに罪を沈めるなどということができると、自分は本当に思っているのだろうか?」それでもブライオニーは自分ができる唯一の方法で贖罪を試みる。小説家はいかにして贖罪を達成できるか?「神が贖罪することがありえないのと同様、小説家にも贖罪はありえない」「それは常に不可能な仕事だが、そのことが要でもあるのだ」自らの限界と条件の設定、そこに贖罪も宥しも終わりはない。この苦々しい結末がそれを強調しているように感じる。終盤の愛の描き方が独特だが英国らしい感動と余韻を残す。物語の限界と可能性に挑んだ意欲作。2020/01/23
Vakira
65
ナンジャコリャ~!リアルリズムと虚構と虚実。マキューアンにやられました。物語の構成、展開、読み手をワクワクさせる技、上手いです。面白いのはこの「贖罪」って題名。あまり聞きなれないないですが「つぐない」の事。実はこのつぐない、3つのつぐないがトリぷる。嘘つきブライオニーのつぐない、神のつぐない、マキューアンの読者に対するつぐない。2部 戦場場面からスタート。映画「ダンケルク」の興奮が蘇った。戦争場面と負傷者病院場面。悲惨である。ドイツ軍からの逃避、フランスからの退却。フランス人からは負犬と思われるという苦渋2019/05/22
やいっち
58
作家は神の視点を持つという特権を持つ。神が死んだ時代にあって、作家こそは神に変わる万能の存在、神に代わる采配の揮い手となった……はずなのに、作品を創造する作家すら神足り得ない。真実を描こうとすればするほど、視点はずれていく、自分が大人になり新たな視点が現出する、他人の視点がありえることを思い知る。真実はある……はずなのだが、それは限りなく引いていく波を追いかけていくようでもあり、気が付けば私は波に呑まれ溺れ行く寸前であることを思い知る。2019/06/02
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