内容説明
科学ジャーナリストの「ぼく」は、英文学者の恋人とピクニックにでかけ、気球の事故に遭遇する。一人の男が墜落死し、その現場で「ぼく」は奇妙な青年パリーに出会う。事件後のある夜、パリーが電話をしてくる。「あなたはぼくを愛している」と。それから彼は「ぼく」に執拗につきまとい始める。狂気と妄想が織りなす奇妙で不思議な愛のかたちを描いた、ブッカー賞作家の最高傑作。
著者等紹介
マキューアン,イアン[マキューアン,イアン][McEwan,Ian]
1948年、英国ハンプシャー生れ。シンガポール、北アフリカのトリポリなどで少年時代を過ごす。サセックス大学卒、イースト・アングリア大学創作科大学院修士号取得。’76年、第一短篇集でサマセット・モーム賞受賞。『アムステルダム』で’98年度ブッカー賞受賞
小山太一[コヤマタイチ]
1974年、京都生れ。ケント大学(英国)大学院修了。マキューアン『愛の続き』など、訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
283
マキューアンは初読。なんともやりきれない思いに圧倒される物語。二人ともに幸福であり、愛し合っていた(あの日までは確かなもののはずだった)同棲生活が次から次へと破綻を余儀なくされてゆく。クラリッサが言うように、ジョーの側にも内的な原因がなくはなかっただろう。たとえそうであったとしても強迫観念に取り憑かれた男に日夜悩まされ、誰にも分かってもらえないジョーが次第に追い込まれてゆく過程には恐怖すら覚えるのである。最後に、墜落したローガンの妻、ジーンが救われるのが唯一の救いか。クラリッサは永久に戻らないのだが。2016/01/26
遥かなる想い
166
気球事故をきっかけにして 始まる 妄想に取り憑かれた青年パリーと ぼくの奇妙な物語である。 著者はこの作品で何を描こうとしたのだろうか? 狂気と妄想が 全編に 充満し、読んでいて 息苦しい。ド・クラレンボー症候群を 題材にした作品らしいが、奇妙で 不思議な 愛の本だった。2018/10/07
ケイ
105
この表紙がすべての始まりなのだ。しかし、これに関わってしまった人達の大半のことをそれほど詳しく語るわけではない。主題は、妄想、妄執、狂気の愛だろうか。パリーの勘違い、亡くなった男の妻の膨れ上がる嫉妬、主人公の妻の夫への疑い…。息をのむようにしながらの一緒に駆け出すかのような冒頭の話を、もっと突き詰めても良かったのだと思う。それは伏線になり、主人公の物理学に対する未練と専門知識も出てきて、捉えどころが難しい話だった。結局、愛とは非常に一方的なものだと納得さされる。今、愛し合っている夫婦の間であっても。2015/12/20
まふ
103
イアン・マキューアンらしい凝った作りのサスペンス小説。乗り合わせ遊覧気球が故障し地上を通りがかった医者がロープを引っ張って助けるものの、逆に自分が釣り上げられ落下死する。乗客だった主人公は遊覧気球の客の一人の青年から唐突に同性愛の告白を受け、事件は思わぬ方向へと動いていく。青年の求愛はしつこく、主人公の拳銃入手、実弾発射という事態にまで進ませる…。緻密な作品ではあるものの「うまいが好きになれない作品」というところ。G540/10002024/06/19
藤月はな(灯れ松明の火)
84
絶対視されやすいが、人の心を損ない、苦しめ、一方的に縛り付けもする「愛」を押し付けられた結果、鬱屈した感情や不信感を持つ人にはうってつけのヒリヒリ本。美しいキーツ研究者の妻と愛に満ちた日々を贈るジョー。だがある衝撃的な事件から一人の男に「あなたは僕を愛しているんだ」と付け回されることになり・・・。常に的確な分析しているジョーの一人称に対し、唯一、三人称で語られる「九」で男ならではの我が身可愛さの傲慢さを浮き彫りにしているのが印象に残っています。ダニエル・クレイグ主演の映画『Jの悲劇』もチェックしてみよう。2016/01/30