感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
226
『桜の園』は、チェーホフの晩年に書かれ、いわゆる4大悲劇の最後を飾るもの。初演は1904年だから、日本との関連で言えば、まさに日露戦争の最中であった(もっとも、書かれたのはその前年だが)。そうして、革命の足音もしだいに迫りつつある頃だ。そのことは、劇にも濃厚に反映されており、登場人物ではロパーヒンが、まさにその体現者だ。一方、ラネーフスカヤ等の一族は、かつての富と繁栄の象徴であった桜の園を追われてゆく。その静かな交代劇は、「滅びの美学」ということになろうか。なお、3幕で幕を閉じる方が劇的ではないかと思う。2014/04/10
ハイク
136
「桜の園」は貴族であるラネーフスカヤは屋敷を担保に金を借りた。商人から土地を売却し借金返済し新たな生活をするよう勧める。女主人は過去の栄光が忘れず決断できない。時代の流れについていけない貴族の没落を描いた作品でチェーホフ最晩年の作品である。家の庭には桜が見事に咲き誇るが、家が売却されると切られることがこの物語の象徴で印象的である。「三人姉妹」はロシア革命の直前の頃で、彼女達はモスクワでの華やかな生活が忘れられず戻りたがっていたが、田舎での生き方を模索することになる。こちらも上流階級の没落を描いている。2016/10/12
のっち♬
127
四大劇より二作。どちらも登場人物は多く、特に『三人姉妹』は錯綜した関係を相互に緊張させながら盛り上げる作劇術が冴えており、市議会議長や死を可視化しない静劇志向が焦点にエッジを効かせている。『桜の園』は人物を過去・現在・未来に象徴化することで過去に縋る愚劣を辛辣に風刺し、その悲劇的テーマと喜劇的造形のギャップの点で、四大劇をいずれも単なる悲劇・喜劇の次元で扱わない姿勢が最も顕になっている。詩情や未練を退場させ、冷静に時代のうねりを見据えた作者。勤勉と苦悩と信念に帰結した創作活動の終点に相応しい傑作群である。2023/08/02
buchipanda3
103
桜と名が付く本をもう1冊と思ってこちらの戯曲を。2篇とも著者らしく劇的な出来事は起きないが、人間が見せるどうしようもない滑稽さと物哀しさが伝わってくる。目線はドライだが、シニカルというよりも労わりのようなものも感じた。人は合理的にも感情的にも覚束ない行動を取ることがある。貴族も女性も新たな社会を迎えるという時代の変革が迫りつつある中では尚更。その覚束なさから解放された後は前向きになるはず。でもセリフのみだから彼女らの内面は明示されない。ワーリャやイリーナに残った本当の気持ちはどうだったのだろうかと思った。2022/04/10
匠
98
ページ数からいくと「三人姉妹」のほうがやや長めなのだが、「桜の園」のほうがダラダラと引っ張った感じがして、その割りにここで終わるんかい!っとなんとも消化不良。貴族階級の没落を描いた有名な作品だし、難解というほどのものでもないけれど、ただただ登場人物達が好き勝手に喋りまくっていることに、意味を持たせたくなりながら苛立ってしまった。でもこれ戯曲なので、舞台で観ると案外ちゃんと見えてくるものがあるのかもしれない。「三人姉妹」も華やぐより哀愁を帯びていて、なんとも19世紀末のロシアらしいなと思ってしまった。2013/10/11