内容説明
愛情も人間性も理解せず、世間体を重んじる冷徹な夫カレーニンの黙認的態度に苦しむアンナは、虚偽と欺瞞にこりかたまった社交界を捨て、ひとり息子セリョージャへの愛にさいなまれながらも、ヴロンスキーとの破滅的な恋に身を投じる。一方、ヴロンスキーがアンナを愛していることを知った失意のキチイは、理想主義的地主貴族リョーヴィンの妻となり、祝福された生活をおくる。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
Tsuno本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
421
プロットそれ自体は通俗小説と変わらないとも言えるが、この作品をそこから大きく飛翔させているのはトルストイの透徹した視点によるリアリズムの筆法だろう。私たち読者は(少なくても私は)この物語のヒロインたるアンナに全的に感情移入することはできない。彼女は自分自身の感情に対して、いわば自由奔放に身を任せるし、それは他者(とりわけカリーニン)にとっては身勝手であるとさえ言えるだろう。19世紀末(同時に帝政末期)のロシア社交界のモラルや常識はおろか、現代的な観点からでさえ逸脱に見える。モラリストとはいえない私⇒2022/11/16
優希
117
不倫の恋は燃えるほどに破滅へと追いやられていく姿を見ていると恐ろしさすら感じます。アンナの情緒不安定さはまさに恋の成す術であるといえるでしょう。冷徹な夫・カレーニンは世間体から黙認をし続けていたのは、キリスト教精神からの許しだったのでしょうか。離婚によりアンナを追い詰めることも可能だったのに。そんな中ですから、キチイとリョーヴィンの関係が清らかに見えました。失意からの祝福と言えますね。それぞれの気持ちが垣間見えた気がします。さて下巻へと行きます。2017/02/13
ハイク
105
リョーヴィンとキチイ及びアンナとヴロンスキーの2組の男女を中心に物語が進行する。アンナの不倫は夫との関係を益々厳しい状況となっていく。そんな中でロシアの大地では、リョーヴィンが農作業をしている。彼はキチイに振られたがそれにめげず大地と戦っていた。彼の下で働く農民と力を合わせて働く姿は前向きですがすがしい。丁度不倫と対比させて物語に厚みを増している。トルストイの狙いはこれだと思う。不倫は非生産的で負のイメージで一方リョーヴィンの考えや行動は前向きだ。これがもう一つの主題なのであろう。リョーヴィンは結婚した 2017/10/01
ナマアタタカイカタタタキキ
84
相も変わらず愛憎のすったもんだが繰り広げられる傍ら、取り分け農奴解放に関してや、死生観や宗教観に対する言及に感興を覚えた。己がこの上ない幸福の最中に在る時、その対極にある、まるで相反する観念を意識せずにはいられない。けれど幸福は、その観念によって打ち消されるどころか、寧ろそれを必要とさえしているらしい。生が死を前提に成り立っているのと同じように。着実に基盤を築いている新婚生活と、一歩ずつ破滅へと向かっている逢瀬との対比よ。さりとて、いずれも生を全うしようとしていることには変わりはない。しかし長い。下巻へ。2021/10/22
NAO
75
愛情のない結婚をしたため、苦しみ破滅的な恋に身を投じていくアンナ。他の女性たちはそういった状況下でも夫に逆らうことなく、結婚生活を続けている。義姉ドリイはそういった保守的な女性の代表として描かれ、アンナと対を為している。彼女がアンナに好意的なのは、自分にはできないことをアンナが毅然としてやっているからだろう。だが、トルストイがアンナのような自立心のある女性を理想として考えていたのなら、どうして彼女はこうも不幸なのか。恋をして不幸になっていくアンナと、静かな幸せに向かっていくリョーヴィンの残酷なまでの差。2016/12/04