感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
175
社交界のコケット未亡人に恋をして人間ぎらいになる世間知らずの青年。適応を美徳とする当時の風潮では過剰な正直一徹も阿諛追従も風刺題材だった。人物造形が終始一貫しており、笑劇は悉く彼らの心の動きから発している。自分の信条とは対極なセリメーヌに惹かれるジレンマの描写も巧妙。生涯にわたって周囲の陰謀や批判、異性不和に煩わされた作者のことだから心情の発露や人間ぎらいはどの作品よりも根源的なテーマであり、喜劇と悲劇の表裏一体性に結びつくのもある意味で必然。社会適合の見本がどこまでも随いてくるのがトラウマに思えてくる。2022/07/16
ケイ
154
心にもないお世辞が言えない貴族の主人公の、世渡り下手な不器用さが、終始ぶれない。正直さが認められるはずだと、裁判の根回しも一切しない。そんな彼を心配し、常に助言し、彼が不利にならないように立ち回る親友のフィラントと、アルセストへの気持ちを隠そうとせずふられても態度の変わらないエリアント。この三人の心根に救われる。俗なものへの揶揄と、真に正直である難しさとを問うはなしは、古今東西の名作に事欠かないのだなあ。2022/06/14
かみぶくろ
123
一本気で純真で社交辞令や阿諛追従ができない主人公のアルセスト君だけど、こういう性格類型って現代のエンタメ系コンテンツだとわりともてはやされるキャラな気がする。それなりに社会人やってる身からすると、アルセスト君がそこそこ悲しい感じで終わる本作は、リアリティって意味でもなんだかホッとした。アンチ半沢直樹なんだなあ自分は、と改めて気付かせてもらいました。2017/08/20
新地学@児童書病発動中
110
いろいろなことを考えさせてくれるモリエールの名作。真のコミュニケーションとはどういうものか自分に問いかけながら読んだ。内藤氏の訳はやや古風ながら格調高くて、モリエールの文章の香気を伝えているような気がした。アルストのような人物が自分の身近にいたら、共感するよりも迷惑に感じるかもしれない。それでも読んでいて感情移入できるのは、作者の巧みな人物造形のせいだろう。2014/09/08
アナーキー靴下
87
あああ…なんかへこむし胃が痛くなる感じ…これは夏目漱石の「吾輩は猫である」を読んでいるときにとても近い感覚かもしれない。こんなことなら読まなきゃ良かったと思いながら…。でもじゃあ酷い本、悪い本なのか? といえばもちろんそんなことはなく、非常に優れた喜劇なのは間違いない。いやしかし喜劇、だからこそ胸を抉られる残酷さ。逃げ場なんてどこにもない。だから嫌だったんだ、生まれたくなんてなかったんだ。人間なんて嫌い、嫌い…。本自体はページ数も少なく、平易な優しい言葉で綴られており、真理を突いていて…良い作品です。2021/05/17
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