出版社内容情報
圧倒的緊迫感! 怒濤のような疾走感!! 佐藤優氏激賞。「父と子」の葛藤、未成年の魂の遍歴を描く五大長編の一作。
酒、賭博の泥沼にのめり込み、腐敗した醜い人間関係に傷ついたアルカージイは、戸籍上の父である巡礼マカール老人の美しい心に打たれ、更生の道を見いだす。が、敬愛する実父ヴェルシーロフの「運命の女性」アフマーコワへ恋心を抱き、事態は悲劇的結末に向けて加速する。「父と子」の葛藤、未成年の魂の遍歴を描きながらロシア民族の理想を追求するドストエフスキー五大長編の一作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
131
腐敗した人間関係に傷ついたアルカージイはマカール老人の美しい心に打たれるが、父が執心するアフマーコワに恋心を抱く。「神のない生活は—苦しみでしかない」—巡礼者マカールは著者の理想とする「正教」を具象化したような存在で、語られる挿話や無神論に対する見解が印象深い、あらゆる無意味に虚しく突き当たる現代人の救済の鍵がここに示唆されている。物語は他の代表作ほどドラマチックな要素はないが、錯綜したストーリーテリングでクライマックスを形成する。人間は誰しもが現実におでこをぶつける必要のある未成年で、放浪者ではないか?2018/11/29
syaori
82
終ってみれば青年が「人生の活動舞台への」第一歩を踏み出す美しい青春小説でした。主人公の前に現れるのは、「良心の裁き」に苦しみながら賭博に浸るセルゲイ公爵や理想に生涯を捧げながら愛欲により破滅するヴェルシーロフ等、”聖母の理想を懐いて踏み出しながら”悪行をもって終る人々で、彼らを見つめることは善美の理想と醜悪な卑劣さとに引き裂かれる自身を見つめることでもあり、そこから彼の理想の形も変ったことが示されます。同時に本書では詳らかにされないその形は、作者が「未成年」(読者)たちに託したもののようにも思われました。2023/08/25
aika
55
父と子の物語以上に、母の偉大な物語であると思いました。賭け事など俗悪に染まっていくアルカージイに、戸籍上の父マカール老人の登場が光を与えた場面は、よくぞ来てくれた!となりました。狂人としか言えない父ヴェルシーロフの行為の数々、ラムベルトの卑怯さには辟易しそうでしたが、最後は母の愛に父も子も皆が包まれて、お母さんの無償の愛、慈悲って本当にすごいなあと感じました。伯母タチヤナもナイスでした。未成年が、これからのロシアを、時代を作っていくとの意が込められたラストに、ドストエフスキーの温かみをほのかに感じました。2017/10/30
ころこ
47
『賭博者』を思わせるギャンブルの場面があったり、『悪霊』を思わせる自殺の使嗾の場面があったり、それまでの小説のアイデアがあるかと思えば、『カラマーゾフの兄弟』を思わせる老いた遺体が語る場面はこの後の小説のアイデアとなります。人間関係が整理されて前向きに終幕を迎えますが、むしろ葛藤が解除されることで文章の力を失っているようにみえます。『罪と罰』の様に描写による喚起力も一人称によって封じられてしまっているので、全体の構成から粗の多い本作は、よっぽどのファンでなければ読む意義に乏しいと断ぜざるを得ません。2022/04/25
市太郎
47
この頃のロシアではやはり離婚は難しい問題だったようだ。情欲に狂う父や老人等の醜さと巡礼者、未成年といった者達の善意との対比が素晴らしい。アルカージイはどうも若い感じがせず、「未成年者」が、というより「私生児」が、と言ったほうがしっくりくる。賭け事等の社会悪に染まり身を崩し倒れ、マカール老人によって更正へと導かれていくが全体的には混沌としてくる。この小説は、良くも悪くも愛と憎を芯とした「悪霊」と「カラマーゾフ」の間に位置する教養小説である。しかし、そういった先入観は無くした方が楽しめる気がする。(2013)2013/12/07