内容説明
80歳の老婆は「死にたいような、生きたいような、なー先生」と言う。癌の母親を看取った息子は「百点です。…みんなが揃っとるときに、百点満点の死でした」と言った。死ととなり合わせで生きる患者たちと、それを見守る医師。鳥取赤十字病院内科に勤務した著者が、日々の臨床の中での患者や家族たちとの交流を、穏やかなまなざしで綴ったエッセイ55編。
目次
下駄屋のとっちゃん
空を見上げる市蔵じいさん
キクさんはタイムトンネルをくぐって行く
よしえちゃん、わかるかあ
ツッパリ兄ちゃん、点滴に来る
仕事せんでええってこと、夢だったのに
気兼ねなしの暮らしが一番です
な、先生、もう、しまおう
大山、行ってきました
透析十七年の音子さん〔ほか〕
著者等紹介
徳永進[トクナガススム]
1948(昭和23)年、鳥取県生れ。京都大学医学部卒。鳥取赤十字病院内科部長を経て、2001(平成13)年12月、鳥取市内でホスピスケアのある19床の有床診療所「野の花診療所」を始める。’82年、『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞を受賞。臨床医として勤務するかたわら旺盛な執筆活動を続け、『医療の現場で考えたこと』『臨床に吹く風』『カルテの向こうに』『隔離』『死のリハーサル』など著書多数。’92年、第1回若月賞を受賞した
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感想・レビュー
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えい
5
エンドステージにある患者のエピソード集。人間の最期は、その人の人生を象徴してるかのように感じる。どんな人生を歩んできたのか。良いも悪いもそう生きてきたから。たくさんの患者の最期を書かれているが、悲しいだけでなく、心が安らぐような気持ちになるのは、先生の人柄なのでしょうか。ホスピスは苦手意識があるが、受け止めていきたい。2014/04/30
patapon
4
患者さんや家族と向き合うのは、疾患や治療だけでなくその人の生活や人生とも向き合うこと。乳がんで亡くなった、同僚である総婦長さんに著者が付けたあだ名は「ミセス・サンドバック」。痛みや死が身近になった時人はいろんなものがむき出しになっちゃうんだろうなあ。あとがきではやさしさについて書かれている。やさしさってなんだろうと考えさせられました。2020/05/07
Neuroticism
2
内科医のエッセイ。泣くな研修医と違いノンフィクション。終末期の人やそうでない人とのかかわりを描いている。全部で55編の短編があり、おそらく55人の患者が描かれる。人の反応や仕事は多様だ。気が動転してる人の例はあまりなかったが、描かれなかっただけだろうか…。全ての人間は死ぬにもかかわらず死のプロセスに関する知識を仕入れるチャネルが、世の中には少ないなと感じた。2024/06/01