内容説明
てめえがなんでやくざになって、二十年以上も足を洗わねえのか。時々、俺は考えてみるよ。どこか、やくざになりきれねえ。はぐれ者みてえなとこがあるのさ(「水の格子」)。獲物を狙う男の目線は、いつも猛々しい。しかし、所詮は棒っきれのようにしか生きられないやくざ者。やくざ者にしかわからない哀しみってものもある…。北方ハードボイルドの新境地を開く連作短編集。
目次
第1部 私の中の男(風;鳩;八年;砂時計;横顔;白い布;灰)
第2部 男の中の私(水の格子;風呂;棒)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たーくん
7
グレーのスーツ、地味なネクタイ、きちっと刈った髪。よく独り言を呟く神経質な男。一見普通に見えるが、田中という、棒っきれのようにしか生きられないやくざ者だ。強欲な親分の下、苛立っていた。素人をいたぶり、若い衆がやるようなことをする日々。先頭に立って抗争を乗り切り、跡目をとったつもりになるが、分家を言い渡される。のし上がらねばならぬと肚を決めた。文体の実験的な試みが話題を呼んだ記念碑的な連作短編集。 2019/05/19
かえるくん
7
再読。小説とは文体である、ということを実感させてくれた作品。極限まで切りつめられた高密度の文体から立ちのぼってくる男の有り様に打ちのめされる。いまや歴史小説の分野でも一家を成した著者であるが、その最も偉大な達成は、田中という平凡な名前と外見をもつやくざを描いたこの作品だと思う。2013/07/01
乙郎さん
3
やくざの男を主人公とした連作短編集。二部構成になっていて、前半は男を三人称で描く。おぼろげながら浮かび上がる物語。冷静な筆致は決して読者を男の中に立ち入らせない。後半は男の一人称で描く。冷酷さが前面に出ているがダークヒーローものというわけでもなく、時折挟み込まれる「覚醒剤」という単語が、男も薄汚いやくざにすぎない現実に立ち戻させる。読者の容易な感情移入を拒む一方、親分の死に涙する男に読者は戸惑いを感じるだろう。ラストの展開は素晴らしいの一言。2009/01/28
ツカモトカネユキ
2
1991年の作品。40半ばに差し掛かったやくざ者が主人公です。やくざ者になってからの20数年間の鬱憤をまき散らしながら独特な登り方をしていきます。ほかの作品の主人公と違い、かっこよさを感じることがないところにリアリズムを感じます。すっきりと話がまとまるわけでもなく、これからの生き方にも迷いを残しつつ話が終わります。読んだ後に、こちらもすっきり感がなくどんよりとしました。2019/06/11
さの棒術
1
今まで読んだ「北方謙三の中で一つ選べ」と言われたらこれ。
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