内容説明
日常の裏側に死者たちは佇む。生きていた時に抱いていた想念を、妖しくも美しい幻に変えて、この世に残っている者たちを誘う。闇の中で死者たちが開く異界への扉。その向こうで、過去と未来は入り混じり、夢と現実が交錯し、死者と生者のひそやかな交歓が繰り広げられる。やがて、あふれくるエクスタシーと共に、すべては黄泉の世界へ流れゆく―。恐怖と官能を湛えた極上の幻想譚集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
341
まさに、小池さんの本領発揮というところ。幻想的で、ぞわぞわさせられて、ほんの少し官能的で。女性主人公の、男性に必要とされなくなっていく焦りと哀しみ、完全に同化しながら読んでいた。こんな経験、小池さんみたいな美人でもしているのかなぁなんて思いながら。2018/07/04
ヴェネツィア
333
7つの短篇を収録。裏表紙は「幻想怪奇小説集」と謳うが、幻想性も怪奇性もともにマイルド。読者を恐怖と戦慄に、といった類のものではない。むしろ、幻想小説の手法を用いることで、日常には立ち現れてこない、人間に内在する真実層を浮かび上がらせるのが狙いだろう。いずれも、小説は滑らかに世界を構成し、美しく収束する。また、エロスとタナトスが巧みに相互を引き立ててもいる。そして、そこが問題でもある。作者の器用さと小説の巧さはあっても、どうしてもこれを書きたかったという情熱に乏しいのである。これも上手さ故でもあるのだが。2018/08/29
miyumiyu
90
じっとりと淫靡で死の匂いが漂う。妖艶な描写には嫌悪感はなく、小池さん独特の不思議な世界観に引き込まれる。最初の「やまざくら」から背筋がゾッとする。「イツカ逢エル…」「蛍の場所」は、下から這い上がってくるゾワゾワが心地良くさえ思える。そして「康平の背中」のラストが予想外で心底こわかった。またしても小池さんにやられた。2018/02/20
じいじ
89
さすが小池さんの巧さが冴えた、趣の異なる七話の短篇集。ちょっぴり艶っぽく、ほろ苦いホラー性もあってオモシロイ。何話目かで、これは再読したなと気づきました。読メに感想の登録がないから、読んだのは10年以上昔になるだろう。大筋は忘却の彼方…である。表題作【夜は満ちる】の〈私の夫はくさい。〉の書き出しで、それを思い出した。風呂嫌いで不潔な夫、妻を愛することができなくなった夫なのに、閨は共にする夫婦仲…。せつなく侘しい哀愁が漂うのが甦った。終わりにぞくっと身震いする怖さは、ホラーが苦手の私でも耐えられました。2020/10/29
アッシュ姉
80
死者が放つ恐怖と官能が漂う幻想怪奇小説集。昨今のゲス不倫バッシングなど真理子様にはどこ吹く風、ほぼ全編に妻子ある男と付き合う女が登場。執着心と死臭をまといながら関係にのめり込み、空虚な生活を送るうちに夢うつつの世界へ絡めとられていく。既読作品と似た印象で新鮮さに欠けたなか、「蛍の場所」と「康平の背中」は予想外の結末にくらっときた。まんじゅう、本当にこわい。2018/02/02