内容説明
俳句ブームの火付け役であり、挨拶句の名手であり、辛口ながらユーモアあふれる随筆家として人気絶頂だった著者を、病魔が襲う。「高見順です」という医師の告知が始まりだった。以来、食道癌と向き合い、克明な日記を付け、療養句を詠み続ける日々。度重なる手術、骨への移転など、過酷な病状にも執念の執筆は続くが、ついに辞世の句を遺して永眠。激しく見事な人生がここにある。
目次
残寒やこの俺がこの俺が癌
カーディガン、ナースはみんなやさしくて
春の闇阿鼻叫喚の記憶あり
惜春のまた傷ついてゐるこころ
目にぐさり「移転」の二字や夏さむし
四万六千日いのちかみしめ外泊す
おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
54
著者がガンを宣告されてから亡くなるまで約半年の闘病記。俳人でもあった著者は宣告から死の前々日まで句を綴り続ける。時にはユーモラスに、怒り、喜びや本音、そして最後の句がタイトルの「おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒」だ。私の父も消化器のガンで亡くなったが術前のように思う存分好きな時に食べられないことがかなり辛いようだ。次第に痩せていく自分の姿をよく嘆いていた。この本が出版されてからもう15年あまり。医学は進歩しているといえ同じ病気で命落とした方、闘病中の無念さは今も日々続いていることを感じた。2015/12/18
ネギっ子gen
52
【「墓洗ふ代りに酒をそそげかし」:こよなく酒を愛し俳号を「滋酔郎」と名乗った随筆家・江國滋が書き残した、自らの追悼句】食道癌告知に10時間余の大手術、水一滴飲めぬ6ケ月間に綴られた日記と俳句は壮絶で粋でさえあった――。敗れはしたが闘い切った187日の、闘病俳句223句を収録。表題は「敗北宣言」と題された辞世句。<(あまりの激痛に――)末期(まつご)とも読める末期(まっき)の痛みかな/手術慣れして眠剤を冷酒で/癌憎しビールの味まで奪ひしか/ナースコール競争で鳴る暑さかな/死に尊厳なぞといふものなし残暑>。⇒2024/08/02
活字スキー
15
【残寒やこの俺がこの俺が癌】エッセイや評論、紀行、そして俳句など幅広い分野で活躍した著者のことは、江國香織さんの父ということくらいしか存じ上げなかった。手品が得意だったり、出版業界に限らず顔の広い方だったようだ。97年の2月に食道癌の告知を受け、苦難に満ちた闘病生活が終わりを迎える8月までのほぼ毎日を簡潔ながら克明に綴った日記。来る日も来る日もガーゼの交換、点滴、痛み止め、眠剤。本当なら癌との戦いに勝って、納得のゆく推敲を経ての出版を希望していたが、残念ながらその希望は叶わなかった。2023/12/06
マスクドろ
1
癌への敵対心、諦観、受容、迫る落葉の季節、そして愛した酒。タイトルに惹かれて読んだ本ですが想像以上に壮絶な内容でした。2021/06/08
つっちー
1
文庫本ではなく、ハードカバーを入手して読みました。癌告知からの約七ヶ月、痛み、不安、怖れを克明に綴りながらも、一句一句は、耀くような軽妙写脱な句ばかりです。これだけの覚悟、気概を持ち続けた作者に、忠心より哀悼の意を捧げます。もし、自分が死を迎えるときは、こう在りたいと思います。2014/03/15